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アメリカ人の最近の相続税対策~その3~

アメリカ人の相続は、ほとんど信託(Trust)を介して行われる。財産を信託(Living Trust)していないと、住民票も戸籍もない国、亡くなったときの遺産相続が法的に大変だからだ。

 

アメリカは寄附社会であるとよく言われる。寄附文明と言って良いくらいだ。慈善団体への寄附は100%所得控除であるし、日本のように、いくら寄附しても所得の40%までと制限があるのとは大違いだ。私は思うに、アメリカ人の富裕層の寄附好きは、実は裏があって、所得税対策や法人税対策だけでなく、相続税・贈与税対策に大きく役立つのである。Charitable Trust(慈善信託)と呼ばれるもので、今回はこのうちCharitable Lead Trustを紹介する。この信託は慈善団体が最初に信託財産からの収益を一定期間受け取り、その後信託財産を子などに受け継がせる。

 

この信託の最大活用方法は相続・贈与税対策であり、委託者(親)は将来慈善団体が受け取る金額を、一定期間、割引率を元に計算される現在価値を資産贈与時(贈与時・相続時)に控除できる仕組み。少し難しいが、アメリカの最近の低金利下で相続税対策として幅広く行われている。Annuity Trustとして使用される場合、IRC Reg. Section 20.2031-7もしくは25.2512-5、Unitrustの場合、Reg. Section 664の評価テーブルを用いて贈与税・遺産税控除が計算される。

 

例えば1400万ドル(17億円)の賃貸マンションが信託財産として移転したとする。この資産の5.22%、すなわち73万ドル(8800万円)が15年間にわたり慈善団体に寄附したとする。15年経過後、子にその賃貸マンションが贈与されたとすると、その贈与時のS 7520 Rate(日本でいう基準金利)が2.4%とすると、毎年寄附する2.4%、期間15年を現在価値に直すと912万ドル(11億円)となる。この額を賃貸マンションの1400万ドル(17億円)から差し引くと488万ドル(6億円)となり、この額が贈与税対象であり、課税対象額となる。

 

贈与税の非課税枠が534万ドル(2015年、6億4000万円)であり、全く贈与税を払うことなく、この17億円の賃貸ビルが子のものになるのである。もし金利がもっと低ければ、この912万ドルがもっと大きくなり、子に非課税枠で贈与できる金額が大きくなるわけで、今後ますますこの節税法が盛んになるのでは。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
玄侑宗久著 『仙厓 無法の禅』 PHP研究所 1,500円+税
私が仙厓を最初に知ったのは、ある正月、江戸時代の藩主に招かれて、無地の金屏風に「正月のめでたい文字を書いてくれ」と言われ、彼はなんと「親死ぬ、子死ぬ、孫死ぬ」と書いた。これに怒った殿様だが、気を持ち直し、「それでは仙厓、一番不幸な文字を書け」と言われ「孫死ぬ、子死ぬ、親死ぬ」と。つまり人生は子に先立たれるほど不幸はないと言った。仙厓は禅僧である。著者もそうであるが、仙厓のすばらしいのは、彼はどれだけ請われても幕府や朝廷の権力に近付かなかったことだ。権力と権威は人間を堕落させる。かつて荘子が仕官を断った際に言ったことは、「立派な廟に亀のはく製として祀られるより、生きた亀として泥の中で尻尾を引きずっていたい」という信念。

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