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富裕層の日本脱出にストップか、国税庁

アメリカには出国課税(Exit Tax)というのがあって、2008年5月にHEART法(Heroes Earnings Assistance and Relief of 2008)が米国議会を通過し、6月18日に大統領が署名して発効した。

 

この法は、税逃れのためアメリカの市民権あるいは永住権を放棄する者で、以下の条件に当てはまる者に新たに出国税を課税するというもの
(1)市民権等を放棄する以前の課税年度において、連邦所得税の5年平均が15万5000ドル(約1600万円)以上
(2)市民権放棄の時点で純資産が200万ドル(2億円)以上
などであるが、出国時には、その者が所有する全資産を売却したとして得る売却益(Mark-to-Market)に対し連邦所得税がかかる。但し、この売却益に65万5000ドル(約6600万円)の基礎控除があり、夫婦合算では倍の131万ドルの基礎控除がある。このような出国課税があるため、相続税対策でアメリカを離れることができない富裕層も大勢いる。

 

日本政府はこのほど、来年度税制改正で、富裕層の日本離れがあまりにも多いため対策を練った。出国先として特に香港、シンガポールが急増し、日本出国して当地で永住権を獲得している人数はシンガポールで1850人、香港で2150人となっている。快適なリゾート地を探してシンガポールや香港に永住する者はいないと思うが、ほとんどが相続税・贈与税がなく、株式売却益も税金がかからない国に魅力を感じての移民であろう。

 

特に喫緊の事態がある。今年から上場会社株式等の譲渡益課税が10%から20%になった。日本の上場会社株式を保有する日本人が日本を脱出して日本非居住者となれば、株式譲渡益課税はその者の居住国で課税される。しかしシンガポールや香港は、金融資産の譲渡益課税はなしである。

 

国税庁は、そうした税逃れを阻止するための法案作成に入った。その内容は、1億円を超える金融資産を持つ富裕者が海外に移住する場合は、株式等の含み益に対して所得税を課する。すでにフランスやドイツが導入しているが、日本では年間100人程度が対象となる見込みだとしている。国税庁は、金融資産1億円超を所有する者がターゲットで、転勤などで海外に一時的に住み、日本に戻る予定のある人には課税しない。日本に戻る予定の人は納税の猶予を申告すれば、課税を免除するとしている。

 

低所得者に負担が大きいと言われる消費税増税(こんなことを言っているのは日本だけだが)、その前に富裕層への税負担を強化しているという政府のアピールだと言えるが、考えてみれば、自己申告で「日本にはやがて戻りますよ」と書けば税負担はない。本当に富裕層から税金を取る気であれば、アメリカのように、実際にアメリカに戻ってくるまでは、出国税に見合う担保を差し入れろというのが本当であろう。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
榊原英資著 『榊原英資の成熟戦略』 東洋経済新報社 1400円+税
著者はご存知、元大蔵省財務官。著書に自分の名を付けるというのもいかがなものかと思うが、それはさておき、過去20年の日本は失われた時代のように言うが、それは停滞ではなく成熟と捉える。何故、日本はそのように見るかというと、アメリカと比較するからである。
アメリカは特殊な国で、移民が多く、人口増加国であり、経済成長率も高い、資源国であり、これからもシェールオイルにも期待できる。先進国なのに発展途上国並みの経済を抱えているアメリカを対象としないで、ヨーロッパ諸国をみると、人口減少の問題を抱えているのは日本だけではない。しかもデフレで、賃金も上がっていない。アメリカを除くと、各国似たようなもので、むしろ日本はトップランナーである。成熟国家としてみるならば、自然環境に恵まれ、犯罪率は低く、健康面でも優れている。国民1人当たりのGDPが高く、世界に誇れる成熟国家であるので、この成熟国家をもっと世界にアピールして、成熟国家を維持拡大することこそが、今後の日本に求められることであるとしている。

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