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国境を超える米企業の節税策、これはバトルか

世界の法人税率を考えると、日本とアメリカだけが高止まりをしている。35%を超えるのはこの両国ぐらいのものだ。イギリスは2015年から、いよいよ20%に下がる。アメリカ企業はM&Aで本社を外国に移転しようとするのが目立つが、M&Aの目的は事業拡大ではない。節税である。租税地変換(Tax Inversion)と呼ばれるものである。

 

随分前のブログで書いたが、アップルなどはアイルランドに本社を移転して、僅か1%の課税で済む手法を編み出した。これは両国の法人課税方法が異なることに基因している。アメリカは登記上の本店所在地がアメリカであるならアメリカが課税する。一方、アイルランドは登記上の本店所在地に関係なく本社機能がアイルランドにあればアイルランドが課税する。したがって、アイルランドに登記上の本店を置き、本社機能がアメリカであるなら、両国ともに課税できなくなる。いわゆる二重非課税である。

 

このような節税策を防止すべく、アメリカ政府は規制に乗り出した。アメリカのバイオ医薬品大手のアッヴィ(ABBV. N)は外国企業のM&Aを仕掛けた。これは法人税率が20%に下がる英国に本社を移転し、タックス・ヘイブンのジャージーに持ち株会社を新たに設立する案だ。これにより同社の実効税率はイギリスの税率20%を下回る13%になる。ジャージーはイギリスとフランスの間にある島でイギリス王室属領、マン島と同じく独自の法や議会があり、さらに節税を進めれば法人税率がゼロになる可能性もある。それを察したのか、アメリカ財務省はタックス・インバージョン防止規制を公表、その結果アッヴィはM&Aを断念、違約金16億4000万ドル(1700億円)を支払った。ちなみに節税を得るための買収金額は550億ドル(6兆円)だったというから驚きである。

 

CEOのゴンザレスはアメリカの新規制が買収を断念した最大の理由だと発表。税金が安くなるなら何兆でも厭わないアメリカ企業。国際課税を巡って日本はどうかというと、二重非課税ではなく二重課税に悩まされている。日本親会社が国外企業グループとの取引価格を故意に操作しているとみなされ、移転価格税制で課税されるケースが目立っている。特に中国や韓国は税収確保の意味から日本企業をターゲットに移転価格の調査が多くなっている。具体的には広告宣伝費の分担割合の否認が多くなっているが、筆者からみれば言いがかり的なものが多い。東南アジア諸国はアメリカ企業には移転価格調査をほとんどしないのに、日本企業には堂々とやる。国力や軍事力の差を感じるのは筆者だけではなかろう。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
近藤誠著 『健康診断が私たちを不幸にする』 文藝春秋11月号 880円(税込)
日本は平均寿命が世界一と言われるが「健康寿命」はずっと短く、平均寿命との差は男で9.1年、女で12.7年。これはつまり、寝たきりになっている介護期間が長く、長生きするほどボケが増え、85歳以上では40%がボケている。
諸悪の根源は人間ドック、つまり健診であり、米欧をはじめ他の国では人間ドックなど健診は行われておらず、職場での定期健康診断もない。健診の結果、薬を多投し、高血圧やコレステロール、糖尿病などを作り出す。日本の医者の質は確実に低下していて診察を、CTやMRIなどの医療機器に依存し、その上、製薬会社と日本医師会の癒着で、薬を何種類も投与する。健康長寿になるには、まず自分の体を信頼すること、食生活と日頃の読書や運動を通じて、医者に依存しない生活を身につけることだという。

 

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