所得税等、相続税等の最高税率は55%、先進諸国では断トツの1位だ、しかも基礎控除は無いに等しい。この重税感から預金を海外に持ち出す富裕層は急増している。海外に持ち出せさえすれば、隠せると思っている。
このため政府はOECD(経済協力開発機構)加盟国の協力を得てCommon Reporting Standard=
CRS、つまり海外の税務当局と金融口座情報を交換する仕組み、制度を立ち上げ、OECD加盟国と情報交換をしている。このほど国税庁は海外口座情報として2021年1月末現在、日本人の海外口座数は219万2083件、その口座残高は10兆円をはるかに超えると公表した。国税庁は初めての具体的数字を公表したのである。219万件のうちアジアは181万件、ヨーロッパは32万件でほとんどを占める。しかも、この半年で口座数は15万件も増えていることから、海外預金口座、特にシンガポールには加速度的に増加していることをうかがわせる。念の入ったことに、国税庁発表の際、CRSの口座情報を大阪国税局はつかみ「相続人3人が父親の死後、海外の父親名義の預金口座に残高があることを認識していたが、海外預金口座など把握されないだろうとして、相続財産から除外して申告した。しかし大阪国税局はCRS情報を活用して海外預金の存在をつかみ、さらに過去の海外預金を通じた贈与税も無申告だったことを突き止めた。相続人3人は13億6千万円の漏れを指摘され、重加算税を含め5億3千万円の追徴税額となった」と見せしめ的に公表したのである。
私はこの発表を読んで思ったことは、私の想像を超える219万件もの海外日本人口座あったという事だ、大半は香港シンガポールだという事だが、もう一つは、日本人らしいというか、本名、実名で口座を作るという事だ。これは長年、日本では架空名義で預金口座が作れないので、そんな考えも及ばないのであろう。
このように海外預金口座がますます透明性を帯びてきている。しかし、このCRSにアメリカは参加していない。219万件の外である。ホノルルだけで日本人口座は10万件あるといわれる。アメリカは今も昔もアメリカに現金を送った預金者を絶対公表しない。そのため、ヨーロッパの富裕層はアメリカこそタックスヘイブンの国だと言っているが、アメリカは否定しない。実際バイデンの地元デラウェア州やネバダ州などは、かつてのケイマン諸島やバミュウダよりもタックスヘイブンだ。
日本では確定申告の季節になった。海外資産5千万円以上あるものは申告しなければならないが、申告している者は日本全体で僅か9千人、1万人にも届かない。このギャップを埋めなければ、CRS情報があると、いくら国税庁が言っても、海外逃避資産はますます増えるだろう。
☆ 推薦図書 ☆
橋本健二著 「アンダークラス2030」 毎日新聞出版 1400円+税
バブル崩壊後の1994年から2007年までを「就職氷河期」という。この時期に大学卒業を迎えた世代を「就職氷河世代」と呼ぶ。新型コロナウイルス感染症の影響で、この世代が再来するとしている。2030年はこの世代に登場したフリーター世代が65歳となり、非正規労働者として生涯を送る世代が、現役世代の全体を襲う。フリーター世代に続く氷河期世代が40歳代後半となり、非正規労働者が多いこの世代が社会の中枢を占める。非正規労働者は雇用が不安定で賃金も安く、下層階級を構成している。この層を「アンダークラス」と呼ぶ。アンダークラスは900万人を超えていて、失業者や無業者を加えると1200万人にもなる。コロナ禍、によりさらに増える。この結果、一生独身で低賃金労働を続け、子孫を残さない。しかし結婚しても貧しく、それが子供に連鎖する。そして豊かな人々への反感により、公共心や連帯感が失われる。この本はコロナ禍を通じて、今後の日本社会に大きな警鐘を鳴らしている。不要不急の外出禁止の中、ためになる読書である。