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香港、シンガポールへ続々 増税で止まらない資産逃避

このブログは次週、毎日新聞社の週刊エコノミストに掲載される私の原稿をいち早くお届けするというものである。従っていつものブログとは少し異なる感覚。

 

相続税など日本の富裕層に対する課税が年々強化されている。その結果、相続税やキャピタルゲイン(金融資産の譲渡益)課税のない香港やシンガポールなどとの税率差は拡大する一方だ。こうした課税強化に対する富裕層の不満は強く、香港やシンガポールへの移住者も増加を続けている。富裕層を一方的に痛めつける税制では、キャピタルフライト(資産逃避)は今後も収まらないだろう。

 

外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、香港での永住者は2015年10月現在、2,697人と11年に比べ68.1%増。シンガポールの移住者も2,413人と52.9%増えた。香港などと同様に相続税がないニュージーランドは27.6%増で、香港やシンガポールへの移住者が相対的にも増えているようにみえる。永住者の所得や資産の統計はないものの、おそらく富裕層が多くを占めていると思われる。

 

日本では15年1月から、相続税・贈与税の最高税率が55%に引き上げられ、相続で遺産の半分以上を国に持っていかれることへの富裕層の抵抗感は強い。一方、15年7月からキャピタルフライトに対して課税する「出国税」(国外転出時課税)も始まったが、富裕層の移住の動きは今後も続くだろう。それは、世界で個人に対する所得税が原則、国籍ではなく居住地国(移住先の国)を基準に課されるためである。

 

例えば、日本に居住する外国人は、その人が全世界で稼いだ所得に対して、日本の所得税が課税される(他国との二重課税防止のため「外国税額控除」の制度がある)。各国の所得税法は税率や課税範囲など千差万別。税率だけを比較しても、日本の所得税・住民税の合計の最高税率は55%だが、香港は17%、シンガポールは21%にすぎない。相続税・贈与税は一時的な課税だが所得税の差は毎年の蓄積が大きいため、これが超富裕層でなくとも日本から香港などへ移住する目的の一つとなっている。

 

そして、富裕層にとって香港やシンガポールが最も魅力的なのは、株式など金融資産のキャピタルゲインへの課税がないこと。日本では株式の譲渡益に対して15%の所得税と5%の住民税(別に復興特別所得税が0.315%)がかかるが、これらの国では株式の売買で何十億円の利益を稼いでも税金はゼロなのだ。香港やシンガポールは欧米に比べ日本から距離も近く、世界的は金融機関もアジア拠点を構える。グローバルな経済人にとっては、日本から移住するほうが税金を含めて価値が高い。

 

そもそも相続税は、すでに所得税や住民税を納めた後の遺産に対して課す税であり、世界の国の多くは相続税を廃止する方向にある。1月20日に就任したトランプ米大統領も、選挙期間中に掲げた公約の中で相続税の廃止を訴えていた。お金を稼ぐ能力を持った富裕層が逃げていく国では、経済成長や財政再建などはおぼつかない。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
永野健二著 『バブル』 新潮社 1,700円+税
著者は私と同世代の日経新聞の記者であり、バブルを思いきり経験したジャーナリストで戦後システムの研究者でもある。終戦後から奇跡の復興と高度成長をもたらしたのは、政・官・財が一体となったからであるが、1970年代に状況は一変する。グローバル化と金融自由化が押し寄せる。そして85年のプラザ合意、超低金利を背景にリスク感覚が欠如した狂乱の時代が始まる。従来までの価値観が壊れ、社会が壊れ、結果、高度経済成長期に構築された社会が壊れてしまった。バブルとは一体何だったのか。日本を壊したのは誰だったのか。「失われた20年」を経て見えてくる事実を暴いている。この書の中では住友銀行等金融機関を取り上げ、それに絡む大蔵省のいかがわしさを記述している。なかでも住友銀行の大罪はイトマン事件と仕手グループの小谷問題であり、仕手グループを金融で支え続けた住友銀行と、それを指揮した磯田頭取が元凶だとしている。前に紹介した『住友銀行秘史』と併せて読むとおもしろい。

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