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アメリカ人である新ローマ教皇の確定申告とは

私は今、アメリカで原稿を書いている。アメリカの所得税制は日本と異なり、アメリカ人(グリーンカードホルダーを含む)は例え、世界のどこに住んでいるにせよ、アメリカの非居住者であっても、アメリカIRSに毎年確定申告をしなければならない。
コンクラーベの結果、初めてアメリカ人がローマ教皇になったということで、トランプ大統領以上に、アメリカメディアでは大きく報道されているが、最近のウオールストリートジャーナル(WSJ)やフィナンシャルタイムズをはじめとした経済誌では、ローマ教皇がアメリカ市民権者であれば、アメリカでの申告が必要なのではないかという議論が掲載されている。ローマ教皇や外国政府の要人も例外ではなく、IRSに申告し、納税を行う義務があるというものである。過去に英国のボリス・ジョンソン元大統領(アメリカ市民)が大統領になる前に英国で最初に購入した家を売却した際、英国では最初の家の売却は非課税であるが、アメリカはそうでない、従ってアメリカIRSがキャピタルゲイン税の申告・納税の更正を請求をしてきた前例がある。ジョンソン元大統領は両親の仕事の関係でアメリカに生まれ、幼少のころ英国に戻ったが、そのままアメリカ市民権を所持しており、当時IRSに追及された。自分の国に居住して課税もされないのに、アメリカで課税されるとは理不尽だと主張していたが、仕方なくアメリカIRSに申告・納税したのであった。アメリカという国はそうなのである。
さらに、アメリカでは2010年にForeign Account Tax Compliance Act (FATCA)が発効し、アメリカ国外の金融機関はアメリカ市民権者が有する国外金融資産口座をアメリカ政府に報告(W8BEN)する義務が発生し、バチカンも2015年にこの協定に署名している。ということは新ローマ教皇・レオ14世もアメリカ市民である限り、アメリカ以外の海外口座の残高が1万ドルを超えれば全ての金融口座の開示義務がアメリカ政府に発生するのである。更に、専門家の間ではバチカンの銀行は教皇がサイナー(日本でいう口座名義者・押印者)であるので、バチカンにある金融口座をアメリカ政府に開示する義務があるのではないか、これは教皇がアメリカ人である限り、バチカンの銀行がアメリカ政府の金融監視のもとに入るのではないかと議論されているのである。私に言わせれば、このような問題はすべてアメリカの法律だけの問題である。しかしすべての国はこの度の関税と同様、アメリカに気を使わねばならない。
ウオールストリートジャーナルWSJでは、レオ14世は、20代の時に聖アウグスティヌスの修道会に入会した際、1981年に清貧の誓いを立てて、財産を所有する権利を放棄し、所有物をカトリック教会に返却しているそうある。聖アウグスティヌスの修道会の財務担当者によれば、カトリック教会の聖職者の収入はすべて直接教会に支払われ、贈呈品も教会に直接わたされているとしている。また彼の確定申告記録もないとしている。Social Securityや Medicareは教会が代わりに支払っており、従って、修道会のメンバーは税法でいう確定申告を全員しておらず、現にIRSも聖職者に対し特別に認めているのだそうだ。
それでは、聖職者の宿泊施設、食事、旅行、衣服については課税されないのかという当然の疑問が出るが、アメリカの税法上これは自分の選択ではなく職業上そのような状況に置かれたものであるので非課税とされている。軍人もそうである。
それでは教皇はアメリカに申告はしなくてもよいのか、専門家は詐欺的行為の防止や時効を発生させるために申告をしたほうがよいのではないかとしている一方、FATCAによる海外金融口座の開示等の義務は残る。従って、IRSからの解放を求めアメリカ市民権の離脱をする可能性もあるというメディアもある。そうなると、海外居住のアメリカ市民権者の税制があまりにも理不尽であることが、今後ますますクローズアップされ、問題提起となる恐れがある。現にトランプ大統領も昨年このアメリカ市民権者の2重課税について現在の税制を改革したいと述べている。本当に今後是正されるのか、日本では報道されないが、関税強化によって、アメリカ人の大幅減税を目論むトランプ政権が、このような問題解決が今回の税制改革で行われるのかアメリカ人は注目している。

☆ 推薦図書。
伊藤ガビン著 「はじめての老い」 Pヴァイン 1800円+税
著者はゲーム・エンタメ界からアート界までの人気の編集者である。ご当人が還暦を過ぎて見えてきた景色は驚愕の連続。それは老いていく自分を発見したのだと。40代は濃霧が垂れ込め、50代は焦燥感、60代になると、毛髪にしがみつきたいなどたわいもない願望から、老害側になって気づく事、それは服装がずっと同じという問題。それから人間ドッグでも30代40代は自分の健康状態を終わりのない時間の中に位置づけていたが、あと何回人間ドッグを受けられるのかなんて考えたこともなかった。それから加齢とともに訪れてくる滑舌の問題、下の回らさな、ろれつの回らさな、これを考えるとどんよりとした気分になる。久しぶりに見た黒柳徹子、彼女は滑舌界の女王として知られていたが、黒柳徹子をもってしても滑舌と年齢は切り離せなかったと。
著者はキレる老人を嫌っていた自分がキレる老人になるまでの恐怖を綴った一冊である。還暦を過ぎた人、あるいは老人と同居している人にはお勧めである。

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