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CRS情報の怪

国税庁はこのほど租税条約に基づく情報交換事績を公表した。つまりCommon Reporting Standard(CRS )情報である。CRS情報交換には、自動的情報交換、自発的情報交換、要請に基づく情報交換があり、公表されたのは、令和3年度の7月から12月の速報値である。それによると日本居住者の海外金融口座情報では92か国2,473,942口座数が受領されたとしている。地域別ではアジア・大洋州17か国、北米・中南米20か国、欧州41か国、中東・アフリカ14か国の計92か国である。
County‐by‐County Report(CbCR 国別報告書)の自動情報交換は、OECDの税源浸食Base Erosion and Profit Shifting(BEPS)ACT13(多国籍企業情報の文書化)の移転価格税制の透明化にも使用されている。
CRS情報のなかで、興味を引くのは個人情報だ。日本居住者で国外に預金を持っている人の口座残高合計はなんと12兆6000億円を超えている。私も正直、驚いた数字である。

この季節、毎年、個人の確定申告で忙しくなる。昔と違って、海外に5000万円以上の資産を持っている者は「国外財産調書」を提出しなければならない。税務調査の際、「国外財産調書」に記載していない資産で所得漏れが発見された場合は加算税が5%上乗せされ、記載していると、逆に5%軽減される。言い換えれば、国税庁はいかに海外資産の把握が困難なのかを示していると言えるだろう。

海外の金融口座数が247万件、残高計12.6兆円と公表される中、昨年確定申告で「国外財産調書」を提出した者、わずか1万1331人である。ハワイだけでも口座数が7万件を超えている。この247万件にはアメリカ合衆国は含まれていない。アメリカはCRSに加盟していないからだ。
この程度の「国外財産調書」提出率。これではスピード違反の検挙率だ。見つかったものは運が悪かった程度となる。
かつてオバマ大統領の時、スイスUBSにアメリカ人の秘密口座が暴かれた。この時オバマ政権は、自主的にスイスに口座を持っていると名乗り出たときは、その税金を払うだけでよいが、名乗り出なくて、見つかった場合は刑務所に入れると言った。そのためIRSに書類提出のための行列ができたのだ(これは以前私のブログで書いた)
日本は脱税者に甘いのである。日大の前理事長も収監できなかった。アメリカでは即監獄である。脱税しても金で済ませると、金持ちが考えるからだ。

☆ 推薦図書。
永守重信著 「成しとげる力」 サンマーク出版 1980円+税
著者はご存じ日本電産株式会社創業者オーナーである。この本は成しとげるにはどうするかというより、自叙伝に近い。幼い時、喧嘩をして負けて帰ってくると、母親は「何で負けたんだ」としかる。挙句の果てに「もう一回、喧嘩して勝ってこい」と言われた。つまり子供はやがて社会人になり、困難に立ち向かい、勝たねばならない。勝つまであきらめるな、という教えであったと。会社を興した時も「人の倍働け、人の2倍働いて成功しないことはない」といわれた。
今の時代なんでも1番だけが勝つ時代である。昔のように、ある製品を作って4社も5社も儲ける時代ではない。1番が利益のほとんどを持ってゆく時代である。日本電産は3大精神「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」をもっとうに世界一のモーターメーカーになった。経営する哲学は「足下悲観。将来楽観」で常に足元を悲観し、準備をしておけば、将来は明るくなるという事。経営者を志ざすには有意義な内容である。永守氏の教えは、京セラの稲盛和夫氏、ひいては松下幸之助氏の経営哲学に直結する。今のIT関係で上場した経営者の本の中身とは程遠いが、改めて、人間、日々の努力が大切だと思った。

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