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アメリカのタックスヘイブン化

アメリカではバイデン政権の福祉及び気候変動に対応した大型財政法案(今週になり3.5兆から2兆ドルに減額するとバイデン大統領は述べているが。)の裏付けとして,富裕層への増税の他、銀行口座のIRSへの報告がある。当初600ドル(6万6000円)以上の口座とされていたが、1万ドル(110万円)以上に変更された。銀行口座の動きが開示されると,IRSは脱税犯の取り締りを強化できるという理由だが、本当にこのような効果が期待できるかどうかは不透明だ。
アメリカの脱税取締りの動きが活発化する中、Forbesに,EUのタックスヘイブンBlack list、つまりEU国税当局に非協力的な国々のリストが掲載された。EUの立法に関わるEU Councilにより運営される The Code of Conduct Groupによりこのリストが作成されている。それによると、アメリカ領サモア、フィジー、グアム、パラオ、パナマ、サモア、トリニダード・トバゴ共和国、アメリカ領バージン諸島、バヌアツの9国が挙げられている。つまりアメリカ領ばかり、この直近のリストではアンギラ(カリブ海西インド諸島)、ドミニカ国(カリブ海西インド諸島)セーシェル共和国(セーシェル諸島)はブラックリストからグレイリストに格下げされている。
ただし、このリストでは、パンドラ文書でタックスヘイブンとして記載されたアメリカ・サウスダコタ州はリストされていない。その代わり、アメリカの海外領土としてアメリカンサモア、グアム、米国バージン諸島がリストアップされている。タックスヘイブンと言われながらこのリストに記載されていない国も多く、ここでリストされているのは、非EU国で小さな島々の低所得国ばかりである。EUが要請している様々な改革を行う必要な人材も、お金もない。EUの基準はこれらの国々の事情を考えたものではなく、従ってEUの基準で判断されるのは不公平だという意見もある。寧ろ、本当に改革できるのに改革をしない国をリストするべきであると批判されている。その最たる国は、トルコである。
EUはトルコに対し、トルコと関係のない国、オーストリア、ベルギー、キプロス、フランス、ドイツ、オランダに対し税金情報の交換をするよう求めた。更に期限までにEU加盟国全てと税金情報を交換するよう求めたのである。しかしトルコはキプロスだけは外交関係がないとして情報交換をしなかった。これだけでも、EUの Black Listにのるはずであるが、いまだリストされていない。その理由として最も考えられるのは、そもそもキプロスとギリシャは海上国境線や資源採掘につきトルコと長い間揉めており、また、シリア等からのEUへの難民問題を政治的に利用してBlack List入りを止めたようである。
EUはアメリカに対して政治的な忖度を図り、アメリカとの関係を損ないたくないという意思がありありだ。EUはFATCA (Foreign Account Tax Compliance Act)に従い、EUに居住するアメリカ国籍の税金情報をせっせとアメリカIRSに提供しているが(日本も同様)、アメリカに居住するEU籍の税金情報は殆どEUに送られてこない(これも日本と同様)。アメリカはEUとの同盟国であり、サウスダコタ州をBlack Listに載せられないのである。国力の違いのせいである。そのため現在、サウスダコタ州では信託会社が増え、多くの資金が運用されているが、州での所得税があるわけではなく、様々な手数料による15-16百万ドルほどの収入があるくらいである。雇用でもわずかに弁護士の登録数が伸びている程度だ。例えばテキサス州のように、何らかの税金上の優遇をして、トヨタやテスラなどの巨大企業を誘致しているわけでもない。税金上の優遇を与える以上、州は責任を負うわけだが、サウスダコタ州は何も負う責任もなく、失うものもないと言える。改革をしようというインセンティブも何もないわけで、これを改めるわけでもなく、面と向かってアメリカ政府を批判する国もなく、結果、ネバダ州、デラウェア州とともに、ますますアメリカのタックスヘイブン化は進むであろう。

☆ 推薦図書。
カール・T・バーグストローム/ジェヴィン・D・ウエスト著 小川敏子訳 「デタラメ」 日経BP 2200円+税
「デタラメ」データ社会の嘘を見抜く。というタイトルで、著者はいずれもワシントン大学教授である。原題は The Art of Skepticism in a Data-Driven World  世の中、デタラメ、つまり事実でない情報があふれている。哲学者ハリーは「私たちの文化の最大の特徴は、デタラメの多さである。そして私たちは一人残らず、デタラメに加担している」例えば「コロナ・ワクチンが自閉症の原因になる」という質の悪いデマが流れた。その出どころは1998年にイギリス人医師が「ランセット」誌に発表した研究報告だ。20年越しの調査でもこの報告は完全に否定されている。しかしこのデマは、今もしつこくはびこっている。デタラメをばら撒くのは簡単だが、回収は困難である。デタラメをひねり出すのも、それを一気に広めるのもたやすい。特にツイッターから押し寄せてくるデタラメは、その深刻さや思慮の深さは疎んじられ、軽さや楽しさがもてはやされるようになった。その結果、誤情報、偽情報、フェイクニュースが次から次へと押し寄せてくる。
デタラメを見破るのは難しいが、例えば次のような点に注意する。「情報源に疑問を持つ」「この比較は正しいのか」「うますぎる、あるいはひどすぎる話ではないか」そしてオンラインのデタラメを見抜くには
「知らない情報源からの情報は、検索エンジンで確認する」「ファクトチェックを行うウエッブサイトで確認する」など。いずれにしても、厄介な世の中になったものである

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