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バイデンの税制政策、富裕層増税か

いよいよアメリカメディアもバイデンの大統領当選確実を打った。トランプ大統領はその時ゴルフをしていたが、裁判に打って出るらしい。日本のメディアは伝えないが、大統領選挙には、トランプ大統領及びバイデンの他にリバタリアン党(自己決定権擁護の最右翼で政府も税金も年金も役所も必要なし、薬物OK、国境の壁もいらない、米国軍隊の海外派遣も必要なし)のJo Jorgensen 女史も立候補していて、全体の1.2%を獲得している。またラッパ-のKanye West氏もBirthday Party(自分が当選した日が支持者皆の誕生日になるという意味らしい。)なる独立系の政党を立ち上げ、独り寂しく選挙活動をしていたが、結局6万票ほど獲得したものの早々と敗北宣言をした。このような候補者がおり、投票する人がいるのもアメリカ大統領選挙の面白みで、アメリカ人の興味の一つだ(日本のメディアは無視するが)
さて、バイデンによる税制政策がどう富裕層に影響を与えるのかを議論するメディアが多くなってきた。現実味を帯びたからだ。2018年以降相続税の控除額は1150万ドル(12億円)夫婦合算では2300万ドル(24億円、日本は4800万円)となり、この基準を満たすアメリカ人は全世帯の1%、わずか300万人がこれに該当するが、実際には節税対策を行うので実数はもっと低い。ところがバイデンが提案している相続税の基礎控除額は500万ドル(5億円)まで下げると噂されており、もしこれが実現すれば、米国全世帯の3%、つまり700万人のアメリカ人が真剣に相続税対策を行う懸念が出て来るということになる。
バイデンは所得税については所得40万ドル(4000万円)以上については増税しない、また1年以上の長期キャピタルゲイン税や配当課税については所得100万ドル(1億円)以上の納税者については現状の20%から所得税率(最高税率39.6%)と同率で課税を行うと述べている。相続税の基礎控除額については500万ドルまで下げると噂されているが、相続税率について、Hilary Clintonは前回の大統領選挙で民主党として富裕層には65%の相続税率を課すと言っていたが、バイデンは明言していない。
バイデンの税制政策であまり注目されていないが、大きな増税と考えられているのがStep Up制度の廃止である。これは現在のアメリカ税法では、例えば父親の所有していた土地や株式の簿価は父親の死亡時にその死亡時の市場価値に自動的に調整される、つまりStep Upされる。(日本では真逆で土地や株式に係る相続税を払ったのに、取得価額は父親の取得価額を引き継ぐ) アメリカのこの税制のお蔭で先代からの資産を、税金を払うことなく引き継ぐことが出来、売却したときも取得価額は自動的に高くなっている、という制度となっている。バイデンが考えている税制では、このStep Upを廃止し、相続時に含み益に課税するというものだ。これは中小企業オーナーの承継対策としては大きな問題となる。
ただ、現在の議会の各党の状況だが、上院では民主党及び共和党共に48議席、過半数の51議席まで届いていない。また、下院では民主党が212議席、共和党が194議席となっており、いずれも218議席の過半数まで届いていない。つまり、民主党がもし上下両院で過半数を取れなかった場合、バイデンが大統領になっても、彼の言っている税制は何も決まらないという事だ。絵に描いた餅という事である。特に上院に至ってはジョージア州で接戦が続いており、2組の候補者が来年1月に決戦投票を行う事態になる可能性が高く、当分不透明な状況が続く。その意味で富裕層にとっては相続税対策にはまだ時間があると言えるが、議会での民主党の支配力及びバイデンの税制政策が具体的にどのようなものになるのかは富裕層にとって気になるところだ。
ただバイデンも78歳になる。ご自身も富裕者なので本気で相続税増税を打ち出すとは思えない。歴代大統領は皆さん、大統領になるまでは富裕層増税だが。なった途端にその議論はしぼむ。これはアメリカの文化だと思う。

☆ 推薦図書 ☆
立花隆著  「新装版 思考の技術」エコロジー的発想のすすめ 中央公論新社 860円+税
生態学(エコロジー)は生物学の一分野である。生態学とは、生物と環境及び共に生活するものとの関係を論ずる科学であるとしている。現代文明において、善と悪の判断がつきにくい分野が多い。例えばモータリゼーションを進めることが輸送力の増強、交通の便から言えば「善」、しかし排気ガスや交通事故からすれば「悪」という具合だ。農薬についても、農産物の増産から見れば「善」、一方、植物汚染や土壌汚染から見れば「悪」、このような善悪つけにくい問題に解答を与えてくれるのが生態学である。複雑でチャンネルの多い自然のシステムに比べて、人工システムは単純でチャンネルが少ない、それゆえ、一度狂いが生じると、故障したチャンネルを別のチャンネルが引き継ぐことが出来ない。
生物は、その時、その場所にもっとも適応したものが栄える。ある生物が栄えると、その生物の繁栄自体が別の環境を作り出し、その環境が別の生物の繁栄する条件を作り出す。これを「遷移」という。人間に害を及ぼす生物を「害虫」というが、害虫から見れば人間は「害獣」である。このように自然界における善悪は恣意的なものである。人工システムの合理性は一面的なのに比べ、自然界は無駄なものは一つもないとしている。

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