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外出禁止命令下でのアメリカ住民税の混乱

外出禁止命令が出てから2か月以上になり、仕事は自宅でのテレワークが主流になったアメリカ。日本でも一部在宅勤務が常態化したところもある。

日本人のほとんどが知らないが、アメリカには戸籍もなければ住民票もない。日本では地方税である住民税は、12月末に住民票を置いている市区町村で翌年かかる。ところがアメリカでは、住民票が無いので実際の居住地に納めることになる。1年間のうちに、何か所か住むところが変わっても、税法上はその者の居住地は一か所、半分はA市で半分はB市だから住民税は半分半分というわけにはいかない。国際的に見ても租税条約でも、その者の居住地は一か所一か国でしかないのである。

New York Timesによれば、どの州で仕事をするかは気を付ける必要があると警鐘を鳴らしている。特に何州にもわたって家を持つ富裕層に対しては場所、日数、理由等、自分の行動に詳細の記録を残しておくことが必要であるとしている。

多くの州は183日以上その州に滞在しているかで、その州の居住者か否かを課税上の判断基準にしている。住む場所は複数あるかもしれないが、税法上、居住している場所は一つだ。英語ではDomicileと言いうが、家の所在、滞在日数の他に、本人も妻も子供も住んでいる、子供が学校に通っている、銀行口座がある、選挙投票権の登録をしている、車の登録をしている、免許証が発行されている、仕事をしている等、客観的事実が反映されている生活の場所を指す。 これは、世界で居住地は1か所しかないからである。

富裕層はフロリダ州のような州税や相続税がない州にそのDomicileを置くようにするが、例えばフロリダ州の居住者がマンハッタンのアパートや華麗なるギャッツビーで有名になったビリオネアの街サウサンプトンのサマーホームで長く住みたいということとなると、税金の高いニューヨーク州に課税が発生するかもしれないというリスクを抱えることになる。

今回の新型コロナウイルス感染症等の影響で、ニューヨーク州はパンデミックで隔離された日数を滞在日数としてカウントするかどうか、ガイダンスをまだ出していない。出張などでニューヨークに行き、病気になった場合は滞在せざるを得ないが、その滞在日数がカウントされるのか、また、外出禁止命令で州外に出られない間の日数がカウントされるのか、などのガイダンスも不明確。多くの人は、常識として例外適用だと思っているが、多くの州や市にとって、新型コロナウイルスで金がなくなり、いかなる歳入も必要となっているので、専門家は注意が必要だと言っている。

今回のパンデミックにより、帰国できない外国人に対してアメリカ国税当局IRSは、2月1日より60日間を滞在日数としてカウントしなくてもよいと発表した。IRSは連邦税法上、過去3年間の滞在日数を計算して米国の居住者になるか判断するからだ。アメリカの居住者となると、その者の全世界の所得をアメリカで納税することになってしまうので、多くの外国人は避けたいのだ。但し、今後パンデミックが長引き夏以降も続くようでは、国際問題に発展する可能性が出てくる。

☆ 推薦図書 ☆
三木義一著 『税のタブー』 集英社インターナショナル 860円+税
奥付を見ると青山学院大学学長とあった。いつの間にか、である。著者は弁護士で珍しく税法を熟知している。以前、日本経済新聞で私の単行本を絶賛していただいたことがある。三木先生には感謝である。普通、弁護士は税法の条文を読めない、長いからだ。民法や刑法は一条につき数行であるが税法では十数行は当たり前で、租税特別措置法なんかは何十行になるのも珍しくない。
この本は平易に素人向けに書いている。宗教法人はなぜ非課税なのか?暴力団の上納金には課税できるのか?政治団体の巧妙な税逃れの方法とは?など、日本の税法が抱える問題を抉り出している。
政治家と官僚まかせにした結果、税制は複雑、不公平なものとなった。特別措置法は乱用され、企業への優遇措置は隠されたままである。酒の販売免許制度は選挙の票集めに利用される。必要経費、交際費、印紙税、固定資産税など個別税目を取り上げながら、御用学者が踏み込まなかった税制に切り込んでいる。日本の税制の骨格を知るうえで格好の本である。

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