アメリカ人がよく言うには、日本の確定申告書は単純で、6枚で終わる申告書だと、確かにアメリカは少ないもので、20枚ぐらいある。このほど正式ではないが、IRSにより、2026年度個人所得税確定申告書のドラフトが提案された。以前と異なり、今回改正の新規事項としての目玉は、納税者に対し「あなたはアメリカ市民権保持者か、もしくはアメリカで法的に労働出来る許可を得ているか」の質問事項を追加していることである。日本には無い夫婦合算課税申告の場合は、片方の納税者だけではなく、配偶者に対しても、アメリカでの在留ステータスに回答する必要がある。
今回の改正の理由は、Earned income Credit、Child Tax Credit、American Opportunity Tax Credit、 Adoption Creditなど、税額控除により還付を受けとれるような人たちに不法移民や利益の享受を法的に認められていない人達を排除する必要、つまり不正還付を防ぐ目的からだとIRSは説明している。通常これらの税金還付受ける人達は低所得者層なので、そのような人たちに多くの不法移民が含まれているので、それらを排除したいのだそうだ。一方で、IRSはSocial Security Officeとも連携し、利益享受の可能性を事前確認しているはずなので、このような質問を設ける必要はないと反論する人たちもいる。
既に何回も、このブログで述べてきたように、アメリカでは、移民ステータスに関係なく、アメリカで稼いだ収入は、すべてアメリカで申告を行う義務があるとして、Social Security Numberがない場合には Individual Tax Identification Number (ITIN)を簡単に取得出来るようになっている。ITIN制度は1996年から始まっている。勿論ITIN取得は、不法移民だけでなく、例えば、日本人に多いが、アメリカで不動産投資を行い賃貸収入を申告する場合にはITINを取得しているアメリカの非居住者も多くいる。National Tax Payer Advocateによると2024年には380万人がこのITINを使い申告を行い、144億ドルもの所得税を納税していると発表している。
アメリカの確定申告書は納税額の計算だけではなく、海外に資産はあるか、暗号資産を取得したか、売買したか、等の質問が多々ある。これらの質問事項はIRSに情報提供のみで税額計算と何ら関係がない。ところが、以前もブログで書いたが、これは引っ掛け問題で、もし嘘をつき、申告に漏れがある、その他必要なフォームが提出されていない場合には、日本では考えられないほど多額のペナルティが課され、刑事罰にもなるのである。今回のいわば在留資格を問う市民権情報もトランプ政権の不法滞在者取締りの一環であると考えればわかりやすい。
昨年国土安全保障省とIRSとの間で協定が締結され、4万7000人以上の納税者情報はICEに提供されたが、これはワシントンDC巡回控訴裁判所で違憲と判断された。アメリカではFederal Tax Privacy Lawという法があり、IRSがIRSに提出された確定申告における個人の機密情報を他の政府機関に提供することを厳しく制限している。今後この案はOffice of Management and Budget (OMB) にて認可を得る必要があるが、OMBは大統領府に属し、大統領のアジェンダを推し進める機関なので、よほど民主党やマスコミの反対がない限り、正式に認可されるのは目に見えている。アメリカの確定申告は、このような質問事項を多くすることにより、税金の申告の範囲を逸脱し、納税者情報が益々トランプ政権に提供される状況になっている。習近平をホワイトハウスに招いたトランプ大統領だが、中国、ロシア、北朝鮮などの支配者が羨ましいのかもしれない。
★ 推薦図書。
片田江康男著 「社喰い」 ダイヤモンド社 1980円+税
企業買収の暗部に踏み込むノンフィクションである。従って企業名も登場人物も実名である。メインテーマは船井電機である。創業者が亡くなってから破産に至るまでの出来事をかなり事実として書いている。役員間のごたごた、300億円の資金流失、M&A業界は魑魅魍魎が跋扈するダークサイドが広がり、そこには吸血鬼が紳士面し、己の金儲けのためには平気で人を貶める輩の世界を描いている。またエステのミュゼを巡る騙しあい、他にはルシアンホールディングス、それに例の積水ハウスの地面師事件、マイスホールディングなどを取り上げ、人間の欲望のルポルタージュの本でもある
