ウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)及びフォーブス( Forbes)等アメリカのメディアでカリフォルニア州の富裕税の住民投票が行われるか否かの署名活動が来年1月から開始されるとの記事が躍っていた。今回の住民投票はヘルスケアの労働組合から提案されたもので、純資産10億ドル(1500億円)以上の超富裕層・ビリオネアに対し彼らの全資産の5%を富裕税として課すというもので、ただし、1回限りの課税とし、ビリオネアは5年の分割で支払いを行い、組合の計算によれば総計1000億ドル(15兆円)の増収になると計算している。
そもそも今回の新税法案の発端は、トランプ政権が議会で通過させたOne Big Beautiful Bill(OBBB)によるMedicaid予算の大幅削減を相殺するものとして提案された。このOBBBは貧困家庭、視力障害者、身体障害者等弱者に対する健康保険であるMedicaidを今後10年で1兆ドル削減するとしており、この対象者である7000万の人たち及び病院並びに医療関係者に大きな影響を与える。これにより多くの病院が倒産するとメディアは言っている。
カリフォルニア州には今回の法案に該当するビリオネアは255人いると推定され、これはアメリカの全ビリオネアの22%を占めるという。因みに第2位はNY州200人、第三位はテキサス州100人と続く。Gavin Newsom知事は、今後このような法案が通過すれば、雪崩れを打って車や家、一輪の手押し車までに課税されるようになるとして、提案されているビリオネア税には反対している。しかい、このような富裕税は民主党の州では広がっており、先日当選したトランプ大統領が嫌がっているNY市長Zohran Mamdaniは年収100万ドル(1億5000万円)の市民に対し更に2%の追加課税を行うことを提案している。実際マサチューセッツ州では、2022年に年収100万ドルを超える州民に対し4%の追加税を課すことが議決され実施されている。コネチカット州、ワシントン州、メリーランド州、ロードアイランド州でも同様の富裕層に対する増税が提案されている、もしくは実施予定である。それでもビリオネアの税負担率は日本と比べると低い。日本では年所得4000万円(27万ドル)から税負担率は55%となる。27万ドルはアメリカでは中低所得と位置付けられている。
カリフォルニア州の州税の最高税率は2024年に13.3%から14.4%に引き上げられ、全米で最も所得税率が高くなっている。カリフォルニア州の税務機関であるFranchise Tax Board (FTB)の税務調査は、IRSよりも厳しいと言われているが、ビリオネアの資産を評価することは難しい作業で、特に未公開株の評価をどうするか、納税者とFTBの評価額が違うことになることは目に見えている。日本のように路線価や非上場会社の評価を国が定めた基準によらなければならないとするはずがない。財産評価基本通達など国会を通っていない単なる役所が決めたルールに市民が従うはずがない。あくまで時価の判定は国から独立した第三者に委ねなければならない。カリフォルニア州では2020年にも0.4%の富裕税及び16.8の最高税率の住民投票が行われたが、いずれも否決されている。この時の富裕税は300万ドル(3,3億円)以上の純資産を持つ富裕層が対象で、その対象者は3万400人とされていた。今回のターゲットはわずか255人で、しかもOne Time Onlyである。しかし、この法案を通すには、まず、来年4月までに87万4641名の署名が必要で、その後中間選挙で過半数を超えれば法案が通ることになる。確かに法案が通過しても訴訟を起こされる可能性は高いが、ロサンゼルス市でも2023年に500万ドル(7億円)以上の不動産を売却する場合4%(1000万ドル超で5.5%)の追加税を課すことが簡単に通った。以外と富裕層に対する課税は問題ないと考えている人が多いのかも知れない。但し、ただでさえ税率の高いカリフォルニア州に更に富裕税がかかるとすれば、富裕層のカリフォルニア州脱出が加速するかもしれない懸念がある。しかし、今回の法案では2026年1月1日時点でカリフォルニア州に在住し、課税は2026年12月31日時点の全財産に課税されるとしているので、懸念をしているビリオネアは既に脱出しているか、一時、避難しているかもしれない。
★ 推薦図書。
イングリッド・ロベインス著 玉手慎太郎監訳 田中理恵香訳 「リミタリアニズム」財産上限主義の可能性 草思社 3520円
個人一人が所有できる財産の上限枠を設ける。これが一人1000万ドル(15億円)。これで超富裕層がいない社会を作る。これを財産上限主義(リミタリアニズム)と呼ぶ。世界で広がる所得・資産の不平等に警鐘をならし、その弊害を説く。不平等には2つの側面がある。一つは、貧しいものがますます貧しくなる場合、もう一つは、富める者がますます富を増やす場合。1970年代の終わりごろから、この傾向が顕著になった。富の集中は民主主義にも悪影響を及ぼす。富を力にプロバガンダを作り出す、超富裕層が特定の思想や研究を支援するため、大学や研究機関に資金提供したり、自身に有利な提案をするロビイストを援助することによって世論を作り出す。誰も超富裕者にならない世界を作り出すことによって、人間的な世界を実現する。という本である
