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アメリカのジョイン口座、日本での大騒動

これはハワイ、ホノルルを舞台にしたものである。アメリカでは預金口座はだいたい夫婦共有名義(ジョイント口座)。この共有名義は夫のみの収入で妻が専業主婦であっても、各々半分の権利がある。例えば夫が死亡した場合でも妻が死亡した場合でも、その預金の2分の1を各々が所有していたとして相続財産の計算が行われる。日本の税務当局の判断はたとえ共有名義でも妻が専業主婦の場合は預金全額が夫の預金であり、財産であるとして相続税の計算が行われるという税法上は日本では明確な判断基準がある。ジョイント口座は法的には片方が死ねば自動的に残った者の所有となる。これは遺言も何も要らない。アメリカでは遺産分割の対象とならないのだ。

 

話は変わって、日本では遺留分というのがある。これは死んだ人の遺言があっても、法定相続分の2分の1まではどんなことがあっても相続できるというもの。例えば遺族が、その配偶者と子一人の場合は、法定相続分は配偶者50%、子50%である。しかるに遺言で「全財産を妻に」とあっても、子は25%取れる。そのような遺言は遺留分の侵害というわけである。

 

ことの発端は、この夫婦はハワイにジョイント口座を作っていた。夫が亡くなって、この口座の所有主が妻だけになった。つまり夫の所有分が妻に全額移転されたのである。ここで、彼らの子は遺留分を侵害されたとし、母に子の相続分相当額の支払い請求を裁判所に訴えた。

 

ここで裁判の争点は、ジョイント口座が遺産分割などの対象となる「私法上の相続財産」となるかどうかである。結果、地裁、高裁とも、ジョイント口座は相続の客体とはなり得ないため、被相続人の「私法上の相続財産」を構成しないと判断、子の訴えを全て斥けた。

 

注目すべきは、ハワイの銀行との本件預金契約では、預金口座は預金口座の所在地(アメリカ、ハワイ州)の法律により規律されるとの定めがあるため、ジョイント口座が相続の客体となり得るか否かはハワイ州法によって判断されるべきとした。その結果、アメリカではジョイント口座の片方の持ち分は相続の対象とされていないため、日本でも遺産分割の対象とならないと判断された(日本の税法は別である)。

 

この高裁の判断からすると、日本での相続に使える。ジョイント口座は何も夫婦で開設されるとは限らない。親子でもできるし、兄弟でもできる。日本では法定相続人は民法で定められているため、例えば愛人などは遺産の分け前はゼロである。そうした場合、アメリカに口座を作ってそこに送金し、愛人とのジョイント口座にすれば立派な財産分与であり、遺族も返還請求できない。遺留分も侵害しない。新たな手法が出現したようだ。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
エリック・シュミット/ジョナサン・ローゼンバーグ/アラン・イーダル共著 土方奈美訳

『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』 日本経済新聞出版社 1,800円+税

世界を席巻したグーグルは何故ここまでになったのかをグーグル会長らが語っている。グーグルの優秀な人材は「スマート・クリエイティブ」と呼ばれる新種で、常識的なやり方からは考えられない方法で会社を成長させた。まず社員を窮屈な場所に押し込める。それによって創造性のマグマが湧き上がる。お互いが手を伸ばせば相手の肩に触れられるようにすればコミュニケーションやアイデアが生まれる。また、社員に責任と自由を与える。社員に遅くまで会社に残ることを強制すべきでないが、任された仕事に対する全責任を与えれば、彼らは残業も厭わない。それは良い意味での働きすぎだ。などなど、最近の日本企業に失われた何かをグーグルに見つけ出すことができる本である。

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