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アメリカの大学不正入試事件と脱税

日本では大学への不正入試問題が発覚し大きな問題となったが、アメリカでもつい先日、FBIとアメリカ検察が合同で50名前後を検挙、逮捕した。首謀者は教育コンサルタントのWilliam Rick Singer、捕まった彼の顧客である父母は既に罪を認めている。彼らの使った金額は数万ドル単位から650万ドル(8億円)まである。この顧客の中には有名女優、ベンチャーキャピタリスト、ウオールストリートのCEOが含まれ、白人富裕層による一大スキャンダルとして報道されている(日本では何故か報道されないが)。この事件ではUSC(南カリフォルニア大学)、UCLA、イエール、スタンフォード、ジョージタウン大学等有名大学の運動部が関わっており、そのスケールとその巧妙なスキームは、単純な日本の不正入学事件では足元にも及ばない。特に問題となっているのは、慈善団体を偽装して不正な税額控除を行う脱税行為も含まれているからである。

 

FBIはSingerの内偵を進めた結果、先月、彼は違法行為による金儲け、資金洗浄の謀略、米国政府を欺く行為、司法妨害の罪を認めたため、事件に関わった人物の一連の逮捕に至ったものである。違法行為による金儲けだが、手口は先ず、親たちは15,000-75,000ドル(200万円から900万円)を払いSAT試験の替え玉を雇う。そして試験後に正しい解答に訂正する等、SingerはSATを主催する人たちにも賄賂を渡している。Singerの自白によれば、SAT主催者、大学運動部のコーチ等に渡した賄賂はこれまでに2,500万ドル(28億円)に上ると言っている。

 

Singerは女子サッカー、ウオーターポロ、セーリング、テニス等アメリカでは比較的日の当たらないスポーツに目を付け、コーチを抱き込み、SAT関係者、スポーツ枠の中で不正入試をさせるという仕組み(アメリカでは日本と異なりペーパーテストだけでなく、高校時代のスポーツや音楽活動も重要な判定要素となる)だった。不正学生の殆どはスポーツ経験がなく、書類にはスポーツをしているような合成写真も作成し巧妙な手口で行っていた。当然、入学すれば得意の運動部に入らなければならないが、入学と同時に、医者に偽の診断書を作らせ、そのスポーツが出来なくなったと大学側に通知することで免除を受けていたという。特にUSCでは過去17回全米大学チャンピオンになっているウオーターポロの有名コーチを始め、毎月2万ドル(220万円)の報酬を受けていた大学幹部もおり、コーチは賄賂資金をスポーツ活動費に充てる等、この不正行為が大学あげてのスポーツ部の募金活動の一環となっていたようだ。

 

特に問題になっているのは、Singerはニューポートビーチ市に非営利団体であるKey Worldwide Foundation(“KWF”)を設立し、そこへ親たちに寄付をさせ、そこから各大学等に寄付金の名目で賄賂が送られていたようである。KWFはIRS対策のため、毎年寄付をした親たちに「寄付金は物やサービスの交換には使われていない」という見せかけのレターを作成し、寄付金控除の対象にしていた。FBIは、この寄付金は賄賂であり何ら慈善のためには使われていないとしていて、これらの親たちは寄付金を賄賂と知りながら寄付金の税額控除をしている。今後IRSもこれを脱税行為とみなして動き出すとのこと。

 

Singerはこれまでに750人以上の生徒を不正入学させた。また、米国では白人が多いマイナーなスポーツに目をつけたということで、白人富裕層による不正入試と位置づけられることも多く、メディアでは、これは氷山の一角にすぎないという見方もあり、今後の行方を注視したい。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
鈴木浩文著 『親父いつ社長やめるの?』 アチーブメント出版 1300円+税
個人的に親しく、私より年下だが学ぶことが多い後輩税理士 鈴木浩文氏の著である。社会的問題となっている中小企業等の事業承継問題、政府もかなり本腰を入れている。昨年今年と税制では相続税や贈与税を事業承継の際、大幅な税負担を軽減する措置を導入した。これで親から子への事業承継で税金を悩んだり苦しんだりすることはなくなるかもしれない。しかし、事業承継の本質的な問題は税金や法律ではなく、人財・企業理念の承継なのだと著者は言う。事業承継とは「人」と「想い」をいかに受け継ぐかにある。
この本を紹介するのに章だてを見るのがおもしろい。
①2020年、団塊世代の大量廃業時代がやって来る
②ナンバー2が成功の鍵を握る(パワーパートナー)
③OSが固まれば、どんなビジネスもうまくいく(理念経営)
④永続する会社のつくり方(BS思考)
などであるが、BS(貸借対照表)を見れば社長の性格がわかるなど、他の類書に見られない興味深い本である。

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