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相続税廃案、つぶれた本当の理由、アメリカ

トランプ大統領は2018年の税制改正法案(Tax Cuts and Jobs Act of 2017)の上下両院においてReconciliationしたものに署名したが、Border Adjustmentなど、過去に例を見ないものも見受けられた。しかし、なによりも、トランプ大統領は相続税廃止を選挙公約にまでしていたが、実現できなかった。なんでだ?

 

ここで、アメリカでの相続税対策の例をみてみよう。アメリカでは、ほとんどの家庭で信託を組む。Living Trustというが、相続税対策はこの信託を通じて行う。一例を示すと、慈善信託(Charitable Trust)というのがある。そのなかでCharitable Lead Trust(私の英語力では和訳不可能)というのがある。日本ではこのような制度はないが、例えば10億円の賃貸ビルがあるとする。これを今、息子に贈与したとすると、10億円に対して贈与税がかかる。評価額が10億円だから5億円ぐらいの贈与税だろうか。アメリカでは、これを信託し、一定期間、この賃貸ビルから生じる収益を慈善団体に寄附する。

 

この信託の目的は、はっきりと贈与税・相続税対策にある。この信託がGrantor Trust(委託者が信託契約を変更できる)の場合、収益を個人の収入と合算しなければならないので、Non Grantor Trustにする。そうすると収益は委託者ではなく、慈善団体に課税されるようになるが、実際は非課税団体なので税金は発生しない。そして節税としてはIRC Reg. Section 20.2031-7もしくは25.2512-5, Uni Trustの場合、Reg. Section 664の評価テーブルを用い贈与税額や相続税額が計算される。あまり話を難しくせず、例えば15年間賃貸ビルの収益を全て慈善団体に寄附した後に、息子に評価額10億円のビルを贈与するという信託を組めば、その時点で評価額は2億円ぐらいになる。日本にはないが、一旦そう決めた信託は委託者が撤回できないRevocable Living Trustである。

 

話を元に戻すと、アメリカで相続税が廃止されるとなると、このような信託をする者もいなくなる。そうすると慈善団体にお金が回ってこない。寄附社会であるアメリカでは、「税」あっての寄附の側面が強い。だからトランプが公約に掲げた相続税廃止は、あっけなく実現不可能になった。ザッカーバーグやビル・ゲイツの資産は10兆円を超えるといわれている。彼らにもぜひ相続税対策をしてもらい、恵まれない人々を救ってほしいものだ。

 

日本も「ふるさと納税」だけが寄附金控除としてもてはやされているが、相続税や贈与税を軽減するような寄附金制度を作れないものか。作れば、また「金持ち優遇制度」としてマスコミが叩くだろうが。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
アンドリュー・キーン著 中島由華訳 『インターネットは自由を奪う -<無料>という落とし穴』 早川書房 2300円+税
この本は、インターネットで人々がどんどん不幸になっているという。インターネットは経済や社会にとって毒である。一握りの巨大IT企業による市場の独占や人々の格差拡大などは、まさしくインターネットがもたらしたものである。インターネットが出現しなかった時代は、ここまで格差がなかった。オンライン市場では、アマゾンやグーグルなど、早く始めた者が勝つという「ファーストムーバ―・アドバンテージ」。一握りの企業が市場を独占する。こういった現象は経済に悪影響を与えている。エリートとその他の人々との格差が広がり、中間所得層の収入が激減している。コンピューターテクノロジーが創出する雇用は「高スキルな裕福な労働者向け」ばかり、「中スキルの労働者向け」の雇用は破壊されつつある。現在、ツイッターやユーチューブ、ブログなどで誰もが自分の考えや作品を自由に発信できる。しかし、それは発信者にとって直接に金にはならないことである。利益を得られるのは、ほんの少数のIT企業のみである。これらを解決する手段として「追跡なし」の検索エンジン。「忘れられる権利」法の制定。あるいは、議会や政府がグーグルのような独占企業のコントロールにあたるべきだ。しかし名前の知れたブロガーたちは巨大IT企業の力を恐れているので出来ないだろうとしている。

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