日本の大企業は世間体を憚って、大胆な節税策をしない。この理由の一つは、東証一部企業にオーナー経営者が少なくなってきているのと、欧米に比べてサラリーマン社長の年収のインセンティブによる収入のケタ違いの低さのせいであると思われる。超一流会社のトップCEOの年収格差は欧米と比べてゼロが2つくらい違うのではないか。
このほど欧州議会調査会社(European Parliament Research Service Companies)は、巨大企業によるEU域内の軽課税国(アイルランド、ルクセンブルクなど)で、税の減収額が45億ドルから76億ドル(50兆円から85兆円)となると、驚愕の報告書を提出した。しかも、それらのほとんどは7大企業によるものだとしている。
以下その7企業の概略を記す。
①グーグル
同社はオランダ法人及びアイルランドの子会社から、アイルランド法人で管理支配地がバミューダとなっている持株会社に、ロイヤルティとして107億ユーロ(120億円)の利益を移転。これにより、アイルランドの納税負担は6.5%。
②アップル
この会社もアイルランド及びオランダを利用した租税回避により、130億ユーロ(150億円)の税負担を免れていたとして欧州裁判所(ECJ)からアイルランド政府に対し、その分の追加納税の判決が下された。国際的な脱税を監視する団体(Tax Justice Network)によれば、アップルはオフショアで181億ドル(20兆円)の利益がありながら、それに対する税負担はなんと2.3%にすぎなかったと発表。
③スターバックス
同社は、オランダを介することで年間3000万ユーロ(33億円)の税負担を免れていた。しかも2007年以降、毎年4億ユーロ(440億円)の利益に対し払った税金は260万ユーロ(3億円)で、実効税率は1%にも満たなかったとしている。さらにスイスでも、食料品製造子会社の税負担率は5%未満。
④イケア
イケアはアメリカ社ではないが、オランダの子会社へのロイヤルティ支払いのために10億ユーロ(1100億円)の税を免れていた。その他、枚挙にいとまがない。
⑤アマゾン
ルクセンブルクの統括会社を活用することで、イギリスで60億ドル(7000億円)の売上げをあげているにもかかわらず、イギリスでの納税はたった600万ドル(7億円)。
⑥ギャップ
ギャップはアメリカのサンフランシスコが本店だが、2011年以降ヨーロッパでの販売も活発で、オランダ法人にこれもロイヤルティを払うことで納税額をゼロにしていた。
⑦マイクロソフト
これも同様で、2002年~2011年にイギリスで24億ドル(2700億円)の売上げがありながら、イギリスでは納税額はゼロ。
以上①~⑦まで掲げる世界的に有名企業の納税実態を報告したが、それに比べ日本の大企業は国際的に節税しているとはいえ僅かで、行儀の良さが光る。しかし、これで生き馬の目を抜くと言われる世界の多国籍企業に対抗できるのか。
日経平均に比べアメリカのダウは優に2万ドルを超えている。税金もコストである。コストを最小限に抑えて株主に利益の還元を最大限に行うのを使命としている欧米流の経営者の考え方は、日本にはない。安倍首相の言う利益還元は先ず賃上げからであるとすると、欧米流の世界的規模の節税策は経営者の脳裏にはないだろう。
☆ 推薦図書 ☆
公益財団法人日産財団監修/太田正孝・池上重輔編著 『カルロス・ゴーンの経営論』 日本経済新聞社 1600円+税
この本は公益財団法人日産財団が主催する、幹部育成プログラム「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」の内容を軸に編成したものである。
厳しい決断を下すとき、リーダーには3つの要件がある。①自ら強い信念を持つ、②周囲の人を納得させ実行させる、③期待できる成果を用意しておく、である。
「完璧なリーダー」は本当にはいない。しかし、人々から「完璧なリーダー」と思われるようなリーダーはいる。それは失敗が起こる前に、その芽を摘み取っているためだ。しかし、その芽を摘み取るのは簡単なことではない。
2011年の東日本大震災だ。日本国内の多くの工場が操業を停止せざるを得なかった。こうした予測不能の事態が起きたとき、リーダーの対応の仕方は応急処置的なものではなく、変革的なものでなければならない。変革的な対応をするときに何が必要か。必要になるのはファイティング・スピリットを見せることだ。リーダーはリーダーとなるために、それまで修練を積んできたはずである。その準備してきたものを一気に発揮しなければならない。
リーダーの役割は、問題解決の優先順位をつけることである。そしてメンバーに問題解決の必要性を納得させて、参加させる。メンバーには、やりたくないことでもやる気を持たせてやる人が素晴らしいリーダーである。