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脱税密告者(Whistleblower)の報奨金 IRSが実態公表

アメリカでは「あの人が脱税していますよ、私が証拠を持っています」と税務署(IRS)に密告し、IRSが税務調査した結果、実際に脱税していたとなると、追徴税額の10%から30%を脱税密告者が報奨金としてもらえるという制度がある。かつて戦後、この制度は日本にもあったが、あまりにも密告者が多く、脱税密告業まで出現するに及んでこの制度はなくなった。これは、日本社会は「ねたみ社会」を如実に物語っている証拠でもあろう。

 

IRS Whistleblower Officeによると2016年は418件、合計額6100万ドル(70億円)の報奨金の支払いを行ったと米国議会へ報告があった。2015年はわずか99件だったので、報奨金の件数はかなり増加している。ただし、報奨金合計額は2015年が1億300万ドル(150億円)であったので、その報奨金額は前年より減少しているが、2014年が5200万ドル(60億円)であったことを考えると報奨金額は年ごとに変動しているといえる。

 

Whistleblower Officeは10年前に米国議会によりTax Relief and Health Care Actが 法制化され設立されたものだが、密告による税収は2007年以来10年間で何と34億ドル(4000億円)。それに対しての密告者報奨金は4億6500万ドル(520億円)で済んでいるので、政府としては人件費の高いIRS職員を動員してゆきあたりばったりに税務調査を行うより効率が良いのが事実である。

 

報奨金はIRSが回収した金額(Collected proceed)の15-30%となっているが、その金額は200万ドル(2億2000万円)以上かつ対象となる納税者が個人の場合には、納税者の所得が20万ドル(2200万円)以上であることが報奨金対象の条件となっている。

 

報奨金のベースとなる回収した金額の定義だが、基本的には税金及び加算税並びに延滞利息となっている。本税だけではないのであるが、ここで問題となったのが、刑事上の罰金や民事上の執行取得した没収物をどう扱うかということ。フォーブス誌によると昨年8月に税金裁判所(Tax Court)にて、これらも密告報奨金の対象となるという判決がおりた。

 

今迄は、不法にオフショア口座を持っている者や犯罪性を伴う税金逃れを行っている者の情報を持っていても脱税しているかどうかはわからない、密告者にとってはIRSに情報を与えるというリスクと引き換えに本当に金銭的な報酬がもらえるのかどうかがネックとなり、IRSへ情報が共有されるところまでいかないということが多々あった。

 

今回の判決により、たとえ脱税額が発生しなくとも、大悪人の情報を持っている密告者はIRSに情報を提供しやすくなり、特にオフショア口座や大きな税金詐欺に関わる内部告発者にとっては朗報で、今後ますます内部告発者が増えるだろう。日本と違ってアメリカの内部告発者はカネが貰えるのである、正義のためなんかではないことを日本人は知らなければならない。

 

ところで、密告者への報奨金についてはIRSだけではなくSEC(証券取引委員会)もこの制度があるのは、あまり知られていない。SECのこのような報奨金制度は2012年に発足され、これまで38名に対し1億4200万ドル(160億円)を密告者に支払っている。SECの場合も回収した金額の10-30%を報奨金として内部告発者に与えることになっている。

 

最近のケース(世界中に報道された巨額詐欺事件)では、2009年にBernard Madoffが150年の実刑で刑務所に入っているが、500億ドル(5兆5000億円)もの資金をポンジースキームの詐欺で、投資家を騙したという犯罪である。後にMadoffの資金の運用会社及びカストディアン業務を行っていたBNY Mellon 及びState Streetが罪を認め、それぞれ7億1400万ドル(800億円)、5億3000万ドル(600億円)で和解をした。

 

この和解を受け、告発者あるいは密告者である犯罪専門会計士のHarry Markolos氏に5000万ドル(60億円)、BNY Mellon のトレーダーGrant Wilson氏には6000万ドル(67億円)、State Streetの従業員 Peter Cere氏及び Ryan Gagne氏に合わせて9000万ドル(100億円)の報奨金が支払われる予定であるとウオ-ル・ストリート・ジャーナル誌は伝えている。膨大な金額である。

 

同誌は、告発者は企業が行っている違法行為を告発するということに益々モチベーションが上がることは間違いないと書いている。会計士なども、ちまちま本業の監査をしているより、大きな不正を一つ見つけ出せば、それでアメリカンドリームである。例えば、東芝の不正を告発していれば、アメリカだったら300億円は確実に手にする。東京の豊洲問題などでこれをやったら内部告発者で行列ができるだろう。しかし石原慎太郎氏は破産の上、刑務所行きとなってしまう。

 

密告・内部告発者制度ほど、わかりやすくアメリカの典型的な制度の一面をよく表しているものはない。アメリカ通の評論家やジャーナリストを自認している人が多いが、トランプ大統領の政策の本音を正確に解説できているマスメディアや人がいまだに出てきていないのも、表面上のアメリカの理解の域を出ていないからに思える。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
中西輝政著 『「世界激変」の行方』 PHP研究所 800円+税
さすが中西京大名誉教授の著である。トランプショックで慌てる人は大局を知らない。グローバリズムを理解できていないからだと。グローバリズムとは1980年代の米英の経済的苦境と日独の台頭を受けて、今一度アングロサクソンの覇権を取り戻すために作られた神話のことで、つまり冷戦時代が終わりアメリカ一極体制下でグローバリゼーションが進んだ。しかし、アメリカはイラク戦争やリーマンショックなど大きな失敗を重ねた。そしてテロとの戦争が世界に広がり、難民が世界中に溢れた。その結果、アンチとネオのグローバリズムが生まれた。アンチ・グローバリズムとは、職を失ったり薄給を強いられたりする人々の勢力。ネオ・グローバリズムとは新興のヘッジファンドやIT業界関係者など、他はどうでもよく自己利益のみ追求する勢力である。トランプを推したのは、このアンチとネオのグローバリズム勢力であるとしている。最後に、日本を取り巻く環境が大きく変わってきていて、アジアは中国とロシアの結びつきが強まり、特に親中の国が増加するだろうとしている。日本はこれからこのような動きに対応をしなければならない。

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