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来年度税制公表、ここまで富裕層を痛めるか

私は、またまた太平洋上の機内にいる。この2週間で4回の長旅である。その最中、与党の平成29年度税制改正大綱が発表された。もう四半世紀以上も毎年、税制改正の本を出版している関係から、税制改正に関わるあらゆる資料が私に送られてくる。しかも最近はネットである。来年の税制改正は、目新しいものはほとんどない。マスメディアでは配偶者控除がどうのこうのといった類で、災害関連法案が多くを占めている。

 

しかし大綱をよく読むと、相続税・贈与税の課税が強化されているのがよくわかる。相続税課税逃れに海外を利用する手を封じ込めようとするものである。日本に居住していると、今や相続税・贈与税の最高税率が55%。遺族が相続する遺産より国が持って行く遺産の方が多くなっている日本。一方、シンガポールやオーストラリア、カナダなどの国には相続税はない。来年からはアメリカも相続税がなくなる。これはトランプの公約でもある。

 

相続税はそもそも、その国の居住者が亡くなって、その国の居住者が相続人として、その国にある遺産を取得した時に、その国の相続税がかかるという制度である。例えば、日本人が亡くなって、その日本人が外国に所有していた遺産を外国に居住していた相続人が相続取得しても、原則日本の相続税がかからないのであるが、2000年に改正された。これは、武富士事件と言われるものから税制改正され、今や相続税法第1条第3項にある。海外にある資産を海外に居住する相続人が相続しても、日本国籍である者は海外に居住して5年以上、亡くなった被相続人も日本を離れて5年以上経たなければ、いくら海外資産を相続しても日本の相続税が追いかけてくるというものである。

 

私はこの税法ができたとき、「これで海外資産を活用した相続税逃れは封印された」と思ったが、さにあらず、一部上場会社のオーナーをはじめ、どんどん海外に居住し始めた。国税庁も「国外財産調書制度」なるものを作り、海外に5,000万円以上資産を保有する者は税務署に届け出なさい、とまで叫ばなければならないぐらい、海外へのキャピタルフライトは凄まじいものがある。そのため、平成29年度税制改正では、日本を離れて5年ではなく「10年以上」でないと海外資産に相続税をかけますよということになった。

 

しかし考えて見れば、遺産は既に所得税や住民税の課税済み資産である。これに、また55%の税率をかけるという。世界の国の多くは相続税を廃止する方向にある。なぜ日本だけが逆行するのであろうか?海外でよく聞かれるが、なぜ日本の相続税法は金持ちをいじめるのか、政府がそんなことして、よく富裕層が黙っているな?などなどである。日本の富裕層はサイレンサー。トランプの相続税廃止に異を唱えるアメリカ国民はほとんどない。所得税を一生懸命払った者の遺産に、また課税。相続税課税はやはり「妬み(ねたみ)社会の日本」だからだろうか。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
佐藤愛子著 『人間の煩悩』 幻冬舎新書 780円+税
著者は93歳になる。この本は彼女の過去の作品、エッセイの類の中から抜粋して一冊の本にしている。収録作品は40年、50年前のものがあり、それに著者が手を入れ完成したのである。その中にポルノ小説家の川上宗薫のことが書いてある。彼は類稀な正直な人だった。自分の卑小さを余すところなく人に見せた。結局、正直に己を晒して生きることがいちばん楽なのだ。ハゲ頭を隠さず、いっそ売り物にしてしまうと愛嬌になる。それが生きる知恵だ。男には人間的愛嬌があった方がいい。へたをすると愛嬌になる前に軽蔑されるという瀬戸際を危うくやり過ごして、マイナスを愛嬌にまで高めるのが男の修業というものであろう、というくだりには頷くものがある。

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