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未請求資産とは何だ!アメリカ事情

☆ 今週の推薦図書 ☆
出井英策著 『日本財政 転換の指針』 岩波新書 840円
著者は慶応大学の准教授である。日本は巨額の財政赤字に怯え、そのため、ひたすら財政削減に走っている。財政赤字の原因は歳出が多かったのではなく、1990年代に繰り返された減税による税収不足だと言う。
そして今まで、公共事業を行うことによって人々の生活支えてきた「土建国家」が90年代に崩壊し、女性の家離れや人件費の削減を招き、人間関係の希薄化を招いている。したがって、中間層にメリットが実感できるサービスを政府が供給し、低所得者層を救済しなければ財政の再建はないとする。

 

最近アメリカの州や郡、市では、破たん危機にあるものが多い。アメリカにいるとよくわかるが、道路がひどい。ガタガタで、まるで未舗装道路のような振動を感じる所が少なくない。これは取りも直さず、地方財政に道路舗装の資金がないからである。私の事務所があるロサンゼルスも例外ではなく、昔あこがれた車社会のアメリカはどこへ行ったのかである。

いろいろ聞いてみると、ペンションが最大の財政難の原因だそうである。公務員の年金は、退職する直前の給料の90%も貰えるという。退職前の給料は最も高く、1000万円は超えているので、日本のサラリーマンと異なり、たちまち優雅な退職後人生を送れるというものだ。しかし、そんな財源はいつまでも続くはずがない。やがて枯渇し、破たんする州政府が増えてきた。州税にしても限度がある。そこで、州政府はこのため新たな財源探しを始めた。

この新制度については、これからアメリカ進出企業にとっては大変な問題になるような気がする。例えば、貸借対照表の貸方に記載されている「未払金」。これには、会社が小切手を振り出したが何年も換金されていない、あるいは、配当金を出したが何年も入金されていない、または、サービス業などでは、「利用権」や「商品券」、ただの「引換券」で期限切れのものもあり、発行会社としては、既に忘却の彼方にあるものもある。未払金として計上したものは、雑収入として処理されているものもあるであろう。

これらの「払わないで済んだ」、あるいは、「換金やサービスしないでも済んだ」というのを「未請求資産」とアメリカでは言う。英語では「unclaimed property」というが、ほとんどの日本人はわからない。この未請求資産は何らかの理由で、客が換金しなかったり、サービスを受けなかったわけだが、会社がサービスを提供せずに済んだ、あるいは支払わなくても済んだ経済価値を現金に換算して、会社は「雑収入」とせずに、収入とした資産を「現金」として州政府に拠出せよというもの。むやみに「割引券」や「ご招待」などを発行すれば、発行した枚数すべてが、利用されたものとして、その額を未利用者数だけの分を州政府に納めろというもので、日本人はまったく理解できていないが、法は法である。

しかし、いったん州政府に納めた後、利用券を持って来た客の分は還付してもらわなければならないが、その手法は複雑だと言われる。このように返還できない資産は、州法に基づく法定休眠期間(Prescribed Dormancy Period)経過後、未請求資産となるが、ニューヨーク州などほとんどの州はその期限は3年である。

日本でもこの制度が導入されれば、飲食店でよくある、この券を持参すれば生ビール一杯無料だとか、ゴルフ場の割引券とかがなくなるのではないか。街の浄化作用にもつながるが、日本政府も財政難の今、一考に値するのではなかろうか。

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