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寄附文化?のアメリカ(2)

前のブログで美術品の寄附が盛んなアメリカを述べた。特に最近、ニューヨークなどのオークションでとんでもない落札価額がつく。例えばピカソの絵が220億円だとか、ジャコメッティが150億円だとかなど。

 

アメリカは寄附文化の国だとかいわれるが、ほとんどの寄附者は「節税」のためである。仮に1億円で買った絵画が今では10億円になったとする。この絵画を寄附して10億円の税額控除を受けようとするには、寄附先が公的な非課税団体(Public Tax Exempt Organization)であることが必要である。この非課税団体の運営費は、その3分の1以上が一般市民からのものでなくてはならない。有名なメトロポリタン美術館をはじめ、大学や病院、教会等が該当する。一方、そうでない私的な非課税団体(Private Tax Exempt Organization)は一般市民からの補助なしで運営されている団体で、Ford Foundationのような超富裕者により補助を受けている団体である。

 

寄附先が公的ではなく私的な非課税団体である場合には、寄附者の税額控除額は例によると、市場価額の10億円ではなく、取得価額の1億円となってしまう。その意味では寄附先が公的な非課税団体である美術館や病院などが最適と思われる。市場価額での税額控除適用の最終の条件としては、寄附先が寄附を受けた美術品を3年以内に売却しないという条件がある。もし3年以内に売却されると、取得価額での税額控除に修正させられる。この法の根拠には、寄附先が本当に、この美術品を欲しているのであり、寄附者の節税対策のために引き取ったものではないことを明らかにする意味でもある。

 

また美術品を引き取った寄附先も、美術品のセキュリティも問題である。美術品の損害保険に加入したり、美術品を含む建物そのものをブランケットポリシーに加入させる所もある。病院などでは、美術品そのものよりも患者の保護が第一だと考えるところが多い。当然だろう。最近、一部の病院ではアルツハイマー患者病棟には美術品を配置しないとしているところも多くなっている。

 

そういう理由では、美術品の寄附先としては美術館が最適である。アメリカの最近の傾向として、大都市の美術館ではなく、地方都市の美術館もしくは大学の美術館が人気である。例えばオハイオ州クリーブランドにある非営利団体Cleveland Clinicのアカデミックメディカルセンターの美術品キュレーターであるJennifer Finkelには、6000以上の美術品が所蔵されているが、自分たちにはピカソの美術品は適当でないと言っている。それは、あまりにも高額すぎるからで、自分たちの責任のもてる範囲を逸脱しているとしている。

 

また、寄附した美術品が寄附後に大変値上がりすることも少なくない。Finkelはこう言った。Milton Averyの絵画は1950年に寄附され、30年後に大変な価値になり、売却代金で病院が潤い、美術品で一杯になったと。

 

税金の観点から考えると、美術品の寄附にあたっては、美術品そのものの寄附よりも、売却してから寄附した方が節税になる場合もある。一般美術品の寄附の場合は30%までしか税額控除できないので、価額の大きいのはその年に全額控除できない(控除できない金額は翌年に持ち越される)。さらに、寄附するには、2万ドルを超える鑑定評価が必要になる。そしてIRSが鑑定評価に疑問を持つと、Art Advisory Panelによる再評価が行われる。この再評価にかかれば、鑑定評価が下がることがあっても上がることがない。問題なのは再評価との乖離が大きければ、税金のペナルティを課してくるからである。日本の寄附税制とははるかにかけ離れている。日本になじんでいる「寄附」はアメリカと金額が違いすぎる「ふるさと納税」ぐらいのものか。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
関裕二著 『なぜ「日本書紀」は古代史を偽装したのか』 実業之日本社 762円+税
古代史研究家の著者が独自の調査からあぶり出した「日本書紀」。天武天皇の命により編纂されたという通説を覆す数々の証左。「真実」は「歴史」になって初めて明かされるものであるが、未だに明かされることのない歴史が日本の古代に埋もれている。それが「日本書紀」だとしている。「日本書紀」は歴史の勝者が書き残した文書であり、強烈なまでに政治性が込められていたのだ。この事実が明らかにされなかった。これこそ古代史最大のミステリーだと。では日本書紀は誰のために書かれたのか。なぜ、日本書紀は天武天皇の仇敵・天智天皇を礼賛したのか、そしてひた隠しにされた聖徳太子の正体とは、日本書紀のカラクリに挑んだ一冊である。春の季節にふさわしい肩の凝らない本、気分転換にすすめられる。

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