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悪質脱税犯の身元割り出し新方法、アメリカIRS

Wall Street Journalによると、IRSの犯罪捜査課(IRS Criminal Investigation Unit : IRS CI)が過去に脱税犯逮捕のため、携帯電話の位置情報記録データを購入していたと報道した。このデータの購入先はバージニア州に本拠を置くVenntel社で、この会社は匿名化された位置情報データをマーケティング会社から購入し、IRSに再販売を行い、一方、IRSはこのデータを利用し資金洗浄、サイバーやドラッグ犯罪、組織犯罪等悪質な脱税犯逮捕に次々と利用していた。

通常、電話会社からの位置情報データは二つあり、一つは電話会社のセルタワーからのデータ、もう一つは携帯電話アプリから収集されるGPSデータである。セルタワーからのデータは裁判所からの捜査令状が必要となるが、GPSデータはその必要がなく、マーケティング会社から購入するだけだ。 このようなGPSデータは匿名化された名前や電話番号が含まれていないため、裁判所命令の必要はなく、マーケティング会社から簡単に購入出来る。2018年までは、Reasonable Grounds(合理的な根拠)があれば電話会社のセルタワーからの記録を入手できたが、2018年の最高裁の判決以降、Probable Cause((逮捕する為の)相当な理由)がないとデータを取得できなくなり、電話会社からのデータ取得が難しくなったのである。

匿名化された人物の位置情報は、電話の所有者がどこの時間帯にどこにいたかを示す。例えば、疑わしいATM入金がどこでいつされたかはわかるので、他のデータと突き合わせることで、この犯人の携帯電話の特定も可能になる。また、その携帯電話の所有者の居所も、夕方から翌朝にかけての位置情報がわかれば、そこに住んでいることがわかるというもの。同様に働く場所、崇拝する場所、何らかの病院通い等、その携帯電話所有者の実際の日常行動がわかり、その他の情報と突き合せればその所有者が誰か突き止めることができるというわけである。

このような位置情報は、ゲーム、天気情報、E-Commerce等の携帯アプリ利用の際、ユーザーが場所確認の許可を与えることにより、全て記録されることになる。このような位置情報の購入者は広告会社の場合もあり、投資会社の時もあるが、最近ではIRS、FBI等連邦政府機関が購入しているというのだ。特にこの2月には、Department of Homeland SecurityがVenntel社の位置情報を購入している。これは、位置情報データから国境の下に掘られたトンネルの存在や不法移民がよく使うルートを見つけるために利用した。IRSは1回の使用料として約2万ドル払っている。 WSJ はVenntel社から実際にデータベースを購入し実験した結果、多くのケースでデータは正確で、その電話利用者が住んでいる場所を突き止め、更に、登記されている住所もしくは賃貸情報からその電話の所有者を割り出すことに成功した。

普段使用している携帯電話のアプリにより、GPSデータをまさかIRSが購入していようとは誰も思わないが、政府機関に携帯電話を通じて様々な情報が集められているという、典型的なIT社会の幻想を反映している例である。日本も最近とみに刑事事件の検挙率が高いのも、街々にあるカメラだけではなさそうだ。中国のように監視社会にならなければよいが。

☆ 推薦図書 ☆
アビジット・V・バナジー / エステル・デュフロ共著 村井章子訳 『絶望を希望に変える経済学』 日本経済新聞出版 2,400円+税
この本は2人のノーベル賞受賞者の共著であり、今の世界の問題を提言している。地球上いたるところに不平等が蔓延している。移民問題、貿易問題、税制問題等・・・
どこで間違ってこうなったのか、不平等はどうして広がったのか。将来、ロボット・AI化により人々が仕事を失い格差が広がることを懸念している。かつて産業革命の時も、紡績機械の自動化で労働者が削減され、貧窮が深刻化した。現在の経営者がロボット化を進めるメリットの一つは税制である。人間を雇用したら社会保険税や給与税を払わなければならないが、ロボットにはそれが無い。不平等を招いた原因に高い給料がある。自ら能力に応じて働いて得たのなら、高い給料も正当化されるという文化が根付いた。これを壊すのには「富裕税」が有効だが、富裕層はカネにものを言わせて政治家を取り込むから税制改革は無理だ。提言できるのは①取りつかれたように成長を目指すのをやめる、②人々が尊厳を持って生きて行ける政治をおこなうことである。

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