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アメリカのオフショア

最近OECDが世界的規模で節税をはかるグローバル企業に警鐘を発している。アップルやグーグル、スターバックスなど以前にもこのブログで書いたが、世界には法人税率2%のアイルランドをはじめシンガポールやケイマンなど枚挙にいとまがないぐらい低税率の国は多い。大企業のCEOは少しでも株式への配当を増やすために連結決算の利益を多く求める。税金はコストだという考えに立てば、できるだけ税金を減らすように努めるのが会社のトップの責任であり、そのためには利益を軽課税国に移すのは常套手段であろう。

 

かつてタックス・ヘイブン国の代表であるルクセンブルクのJean-Claude Junckerが反論し、アメリカのデラウェア、ネバダ、ワイオミングの税制こそ指弾されるべきだと言った。アップル・アイリッシュの申告など目を覆うべきだが、不思議と世界からアメリカを非難する声が聞かれない。アメリカ企業の国外を利用した節税スキームは5つである。何を利用するかと言えば、子会社、移転価格操作、所得移転、ネクサス(Nexus)そしてタックス・ヘイブンである。アップルの節税スキームは今では、節税の教科書として内外から崇め奉られている。

 

アメリカ上院議員のCarl Lewinはこのアップル・スキームを「幽霊法人を創り出すトリック」と呼んだが、これに刺激されて、アメリカ国内企業であっても、収税のない州に子会社を設立し、そこに利益を移転させる。ちなみにアメリカでは個人住民税のない州はアラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、テキサス、ワシントン、ワイオミングの7州であり、法人住民税がない州はネバダ、ワシントン、ワイオミング、テキサス、サウスダコタの5州である。これらを利用して、Stateless EntityとStateless Incomeを作ることができる。つまり物理的施設(Nexus)がないのである。

 

ケイマンやジャージー諸島を頼らなくてもタックス・ヘイブンを享受できるのである。このように、ある意味簡単にできるスキームであるので、アメリカでの税収入の損失は毎年600億ドル(6兆円)であるとしている。Jane G. Gravelle「Tax Havens: International Tax Avoidance and Evasion」では、米国に落とさない利益の税額は1.95兆ドル(200兆円)であるとしている。マイクロソフトはワシントン州、アップルはカリフォルニア州、キャタピラーはイリノイ州に本店を置いているが、それらの州にはほとんどこれらの会社の税収は入らないだろうとしている。

 

日本で実効法人税率の引き下げと取引するかたちで、地方税の外形法人課税を強化しようとしている。黒字、赤字に関係なく法人地方税を資本金の多寡によって決定する方法である。日本国政府は日本人及び日本企業は海外に税のために脱出しないという前提で戦後、今まで所得税、法人税、相続税を課してきたが、アメリカ企業のごとく本店所在地、あるいは利益集積支店は税金の軽い国に置き、個人も日本を脱出する。私はソフトバンク、楽天、ユニクロなどは、それをいつでもできるように準備しているのではないかと思うことがある。杞憂であってほしいが。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
三浦展著 『日本の新富裕層』 洋泉社 1600円+税
年収、学歴、職業、貯蓄、住居、健康などを分析している。それによると、日本の個人資産の40%は60代以上が保有し、資産1億円以上のうち45%は医者と社長であり、日本では360万人がそれを有する。数では米国に次いで世界第2位。50億円以上を有する超富裕層は3400人で世界第4位。50億円以上を地域的に見ると、アメリカが4万人、ヨーロッパが2万2千人。富裕層の嗜好を見ると、大量生産品を買わない。限定品や歴史的に意味のあるものを買う。建築家に設計を依頼して新築住宅を建てる人もいるが、むしろ中古住宅を購入して、リノベーションをする富裕層が増えているという。つまり、従来の常識では捉えきれない消費をし、新しい消費スタイルをリードするのが新富裕層なのだと。

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