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不動産を使った相続税対策。完全封じ込めか!来年度税制

高市早苗総理大臣は以前の自民党税制調査会を解体して新組織をつくった。今までの自民党のメンバー(インナー)は旧大蔵省出身の官僚で、税金に玄人の議員ばかりだった。従って財務省の意向を汲んだ改正が多かったのであるが、新メンバー、とりわけ会長に税法とは無縁の小野寺元防衛大臣を据えた。
この自民党税制調査会の会合で、まず出た議論は、過度の相続税対策をどうするかだった。国税庁が議員に配った資料を見ると、賃貸マンションを1棟買いしたり、商業ビルを小口化や債券化した商品を買うことによって、手品の如く課税相続財産が減少する。この節税対策を大々的に宣伝する企業が多く、国税当局はこれまで、何とか財産評価基本通達総則6項で対応してきたが、とても防ぎ入れないとして、来年度税制改正では、法律としてこのような租税回避スキームを封じ込める案を出してきた。例を取ると10億円で1棟買いしたマンションでも財産評価基本通達通りに評価すれば、せいぜい3億円程度。これを余命いくばくもない被相続人が買って亡くなると7億円もの財産減になる。新税法によると、亡くなる5年以内に取得の貸付用不動産(アパート、賃貸ビルなど)買った価格、(この例では10億円)の0.8を乗じて評価額を計算するとした。つまり8億円の財産評価である。3億円には程遠いということになる。したがって賃貸不動産を購入してから5年は生き長らえないとならない。ただし5年以上前から所有している土地に賃貸不動産を立てるのはOKである。さらに、小口化された貸付用不動産(不動産特定共同事業契約)又は信託受益権に係る金融商品取引契約)について、通常の取引価額に相当する金額(つまり時価、×0.8はない)で評価するとした。これは5年前ではなく、商品の取得時期に関わらず、そのように評価するとした。いままで1口100万円で買ったものが相続の時や贈与の時は30万円で評価されたものが、いきなり時価である。しかも遡及するというから10年前に買って安心していたものまでもダメ。これらは、賃貸不動産の活用で相続税対策をしてきた人々、ならびに、これらを商品として販売してきた企業も大慌てである。国が言うのは、相続税対策は、額に汗して、リスクをとってしなければならない。簡単に、この商品を買うと3割の評価になるというような、安易な節税・租税回避は許さないという姿勢である。もうすぐまとまる令和8年度税制、政府が本格的に富裕層節税封じ込めに乗り出す。限りなく続く賃金実質減、中間層の没落、これに加えて富裕層からの税金奪取、金持ちを作らない、1億国民総低所得階層を将来夢見ているのではと思わせる来年度税制である。

★ 推薦図書。
リチャード・ボールドウィン著 伊藤元重監訳 笹田もと子訳 「トランプの貿易戦争はなぜ失敗するのか」(それでも保護主義は常態化する)日経BP・日本経済新聞出版 3080円
世界経済を震撼させたトランプ大統領の関税措置。アメリカの著名な経済学者が関税措置によってトランプ大統領のいう中間層を救い、製造業を復活させるという政策は間違っている。この本の原題は「THE GREAT TRADE HACK」である。トランプは国外のグローバリストによってアメリカは食い物にされた。それによって中間層がその代償を払っている。そして国内産業も苦境に陥った。それを関税に頼ったが、関税にそんな力はない。そもそもアメリカの中間層は工場労働者ではなく、多くは医療や専門職などのサービス部門に集中している。また製造業が弱体化したのは中国が雇用を盗んだのではなく、自動化が原因だ。アメリカの再工業化には労働力の育成から始めなければならないが、関税では出来ない。

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