トランプ大統領は1890年代のアメリカを理想としている。その時代のアメリカは保護貿易主義が強く、アメリカ国内産業を守るために、国外からの輸入品に対しては高関税(High Tariff Era)を課していた。その頃はまだアメリカには所得税や法人税などの直接税は存在していなかった、ちなみに日本でもそうで、日清戦争の財源を補うために、日本では明治中期に所得税、日露戦争の戦費を補うために相続税(遺産税)などが相次いで立法化された。それでは当時、アメリカでは何が国の歳入だったかといえば、関税(輸入関税)と酒税、たばこ税などの物品税(excise tax)であった。トランプ大統領は関税率を25%というが、当時、1890年のMckinley Tariffでは、輸入品の関税率を50%に引き上げた。1894年Wilson-Gorman Tariffでは関税率を少し引き下げたが、その代わり初の所得税(Wilson-Gorman Tariff Act)を導入したが、それに反対した議員からの訴えで、なんと翌年連邦最高裁で違憲判決が出て、所得税法は消えたのである。しかし消えた所得税法とは、収入が年4000ドル超の人にわずか2%の連邦所得税で、しかもアメリカ歳入額の1%にも満たなかったのである。1895年(Pollock v Farmers’Loan & Trust Co連邦最高裁判決で出た判決文も面白い、個人から税を取るのではなく、直接税は州の人口比例で割り当てるものであるというお達しである。まあこのようなことで、アメリカに本格的な所得税が導入されたのは1913年の第6条憲法修正(Sixteenth Amendment)である。
この間、国民は関税分モノが上がるので、消費者や農民には強い不満が残ったが、過度な保護政策のため、鉄鋼・繊維業界は大歓迎であった。アメリカの繊維業界はすでに日本からの絹でその後ナイロンが出てくるまで衰退産業であったが、カーネギーのようなアメリカの伝説的なオーナー経営者の下、富国強兵の象徴たる鉄鋼業は世界一栄えて、アメリカは世界一の軍事大国、経済大国になったのである。トランプ大統領はUSスティールにこだわるのを日本の経済界や政界は軽く見てはいけない。1890年代世界一になったアメリカをもう一度名実ともに、誰もが認める世界一にしたいのである。大谷をホワイトハウスの大統領執務室に1人招き入れ記念写真をとったのも、大谷は世界一のプレイヤーであるからである。全米一には興味がない。今年かつてニューヨークヤンキースでMVPだったAロドリゲスがテレビの野球解説で、次のように言った「MLBの3人の大打者といわれるが、大谷は世界一のプレイヤー、ジャッジは全米一のプレイヤー、ソトはタダのプレイヤー」これはアメリカ人には受けたのである。対米政策も、日本の政治家や経済財界の人たちは、もっと頻繫にアメリカに行ってホワイトハウスの空気を感じなければいけない。
★ 推薦図書。
和田秀樹著 「老いたら好きに生きる」 毎日新聞出版 1200円+税
この本は高齢化しつつある日本人、すでに人生100年時代になっているが、年をとっても健康でなければ意味がない。「80歳の壁」を健康ですんなり乗り越えるための書である。それには食べたいものを食べ、飲みたければお酒も飲む、くすりは常用するのではなく、不調の時だけ飲めばいい。鬼門の70代を超えれば黄金の80代が待っている。80代を過ぎても自立した生活を続けるために必要なこと。80歳から始める20の健康法、80歳になったら「やめる」こと。病気と共に生きる著者が続ける事、始めること、やめたことなど、実生活を通じて赤裸々に描いている。最後に92歳で現役の田原総一朗との対談もおもしろい。