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バイデン政権のアメリカ税制改革

1987年の映画Wall Streetでは、マイケル・ダグラス演じるGordon Gekkoが「米国では最も富裕な1%が国の富の半分、5兆ドルを所有している。1/3は一生懸命働いて稼いだ人たち、2/3は遺産が転がり込んだ人たち。利息がアホな未亡人や息子、娘に蓄積される。自分は何をやっているのか、株や不動産の投機だ。ふざけんな。90%のアメリカ人は僅か、殆ど富を手にしていない。」と映画のセリフだ。現在は富裕層トップ10%が89%の米国の富を有していると言われている。
バイデン大統領は3月末に富裕層を対象とする新税制を提案し、2023年の予算に取り組むと発表した。二つの新税制が提案されており、一つはBillionaire Minimum Income Tax (BMIT)とよばれ、もう一つは死亡時に含み益に対し課税を行うものである。バイデン政権は、この新税制により今後10年間で3600億ドル(43兆円)の歳入増加が期待できるしている。ビリオネアーに対する課税といっても、実際には1億ドル(120億円)以上の純資産を所有する富裕層に対する課税である。
この背景には富裕層の所得税平均税率が8.2%であり(日本では考えられない)巨大な富を殆ど課税されることなく、蓄積されているというアメリカに漂う不公平を払拭したい考えがバイデン政権にあるようだ。このBMITだが、純資産1億ドル以上の世帯主に勤労所得、不労所得、含み益も含めた全収入にミニマム20%の課税を課すというものであるが、20%以上の税率で納税を行っている者は追加の課税はないとしている、20%未満の場合はその差額を支払うというものであり、大したことはない。また、この含み益に対する課税は税金の前払いと考えられ、実際にその資産を売却した場合には、既に税金を前払いしているので、実際に支払うキャピタルゲイン税額は少なくなる。逆に資産価値が下がれば、還付もあり得ることになる。そもそも、このような煩雑なことが納税者もIRSも出来るのかという問題がある。また、路線価も財産評価基本通達もないアメリカで、生前に資産価値をどう時価評価するのか等問題は山積だ。
一方で、2番目の提案では、死後あたかも全財産を売却したと見做し、含み益に対し、課税するというもので、BMITのような生前課税するのと違い、こちらの方が、現実的かつ効果的かもしれない。現行法では、死後の財産は市場価値に見直され、売却されるまで課税は行われない。また、売却したとしても取得価額は相続時の時価に修正されている(日本では考えられない)為、売却益はでない。このような制度は、実際税金の抜け道になっており、バイデン政権はこの抜け道を塞ぐ事に力を入れているようである。昨年、独身は最初の100万ドル、既婚者は200万ドルを控除出来ると提案したが、各方面から強い反対に遭い、今回は独身500万ドル、既婚者1000万ドルの控除枠を提案している。今回の富裕層の対象は2万人とされている。この2万人から今後10年で3600億ドル吸い取る計画である。本当に可能なのか?ある統計では2021年だけでもビリオネアーの富は1兆ドル(120兆円)増加したとされ、不可能ではないかもしれないとマスメディアは言っているが、歴代大統領は、いつも言うだけで、実際、富裕層が困るような増税をした事がないのはアメリカ社会の伝統でもある。

☆ 推薦図書。
奧村眞吾著 「こう変わる、令和4年度の税制改正」 実務出版 2000円+税
毎年、自画自賛である新年度税制改正の拙著。岸田内閣にとっての初めての税制であり、存在感を示したいところである。住宅ローン控除の見直しや、今年4月から成年が18歳に引き下げられるなどの民法の改正に伴う相続・贈与税の改正。富裕層に対しての財産債務調書制度の強制や配当所得課税の重税などは注目される。そして経済活性化のための賃上げ税制やオープンイノベーション税制の創設。さらには消費税や電子データでの特例など新たに設けられた。本書はこれらの改正項目を網羅し、わかりやすく解説したベストワンの解説本である。これ1冊あれば令和4年度税制の知識は十分である。

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