トランプ大統領の改正税制法案、One Big Beautiful Billにより創設される内国歳入法899条は世界の先進国を驚かせた。先日のブログでも書いたが、UTPRやDSTを導入している国の居住者に対する課税は、毎年5%ずつ引き上げ最大20%までの追加課税となる。例えば日本を考えると、日本に住んでいる日本人がアメリカ株に投資をして、その配当やアメリカの銀行からの利息収入を受け取った場合、899条のいわゆる報復措置が取られた場合、日米租税条約で減免されている源泉税率(個人の配当の場合10%)から毎年5%ずつ源泉税が加算されることになる。また日本人がアメリカにある不動産を売却した場合、現在は連邦税15%、カリフォルニア州にある不動産の場合は、地方税3.3%の源泉税が追徴される(FIRPTA)が、それも5%ずつ毎年上がる。この対象者は日本居住者であるから、日本に住む外国人も対象となる。しかし日本に住むアメリカ市民権者は対象外となっている。日本は令和7年度税制改正でUTPRに対して、15%以下の課税国(軽課税であるがアメリカ資本の大企業が子会社を所有している)にたいして課税強化なる「国際最低課税残余額に対する法人税」が創設されるため、アメリカから見ると日本は「差別的外国」に該当し899条の適用対象国となった。それで日本、フランス、ドイツ、韓国、オランダなど多くの国が対象となった。
ところが先日、ベッセント・アメリカ財務長官は突然G20の枠組み全体で、この税を考えた結果One Big Beautiful Billから899条を削除することを国会に求めたのである。これを受け、税制法案を審議する下院歳入委員会のスミス委員長と上院財政委員会のクレイボ委員長は直ちに「ベッセント長官の要請と、アメリカの税の主権を守るという共通理解に基づき」同法案から899条を削除するとした。思うに、この法案が出た時から、ウオール街では外国人や外国企業からアメリカ投資が減るだろうとした危惧があった。トランプ大統領に限らず、歴代アメリカ大統領はウオール街が反対する事には逆らわない。なぜなら大統領の人気度は「失業率の低さと」「ニューヨークダウの株価の高さ」の2点なのだから、わかりやすい。
★ 推薦図書。
石田健著 「カウンターエリート」 文芸春秋 1188円
「カウンターエリート」とは、何なのか、新しい用語であるが、要約すれば、政府や官僚、マスコミなどを「既得権益化したエリート」として批判する人々の事である。この本は、このようなカウンターエリートがなぜ人々に支持されるのか、台頭してきた背景、その論理を解き明かす。シリコンバレーでは本当は何も生み出せておらず、何かが間違っていると、シリコンバレーのカウンターエリートと製造業の労働者に共通する認識である。トランプ大統領を支持する彼らは、アメリカが衰退していると感じており、その元凶はエリートを輩出する大学だと考えている。そして国家とは一つの国を所有する企業だと考えていて、株主価値の最大化を目指している。この構想に基づけばトランプ大統領はアメリカの株式会社を試みていると言える。