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トランプ前大統領のフライトリスク、そして税金とパスポートの関係

先日トランプ前大統領の居住先となっているパームビーチにあるMar-a-LargoがFBIにより強制捜査を受けたことは、日本の報道によっても知ることになった。どうもホワイトハウスを去る際、最高機密書類を勝手に持ち出した容疑のようだが、一歩間違えればスパイ行為になりかねず、犯罪と認められれば、多分、何十年にもわたり刑務所暮らしとなる。また、この時、FBIはトランプ氏のパスポートも押収したとのではないか、との噂がアメリカ中で飛びかった。その際、SNSでは、トランプ氏にはフライトリスクがあると 反応している。前大統領に対しての強制捜査、フライトリスクがあるというのも前代未聞だが、FBIはその後、トランプ氏のパスポートを押収したと発表した。
トランプ氏はFBIが私のパスポートを盗んだと言っているが、法的手続きを踏み押収したので、「盗んだ」という言い方はいかがなものか。不正を不正でないとするのがトランプ流だが、彼は大統領選挙も盗まれたと言っている。以前自宅に飾ってあった偽のルノアールの作品を本物と自伝で主張していたほどだ(実物はシカゴ美術館所蔵)、しかしFBIは、その後トランプ氏に返却したと発表している。
このパスポートだが、日本と違いアメリカでは、ある一定額以上の税金を滞納すると、パスポートの更新、発行がストップされるのだ。もちろんIRSは、手続きとして、税金滞納者から直接パスポートを取り上げるようなことはなく、国務省に税金滞納者のリストを提出し、国務省がそれを基にパスポートの更新や発行を止めるということになる。そのパスポート発行禁止となる滞納税額だが、5万5000ドル(700万円)である。これには利息及び加算税、ペナルティを含んだ金額なので本税はもっと少ないかもしれない。この法律は2015年にFixing America’s Surface Transportation (FAST) Actが議会で可決され、当時のオバマ大統領が署名したもので、税法Section7345となっている。そういうことで、犯罪に絡むケースだとか、フライトリスク等の特別の理由がなくても、ただ単に税金を5万5000ドル納滞しているということだけでパスポートの発行が拒否され外国に行けなくなる。
この法律は2018年1月より実際に運用されいて、かなりの税金滞納者の海外渡航が出来なくなっているとのこと。これを防ぐには、税金延滞が発生したら、すぐに対応し、IRSとの接触を必ずし、特にNotice of Proposed Deficiency or Examination Reportを受け取ったら30日以内に返事をし、IRS Appeal Officeで協議する。もし交渉が決裂した場合、Notice of Deficiency が送られ、これに対して90日以内に回答する必要があるが、この場合ワシントンDCのTax Courtでの係争となる。勿論、日本と同様、分割払い、支払いの延長等交渉の余地はあるので、パスポートの発行が止められる前に何らかの手を打てば渡航が可能になる。これは日本の税金滞納者が差し押さえを回避する方法と大変よく似ている。つまり国税当局と誠意をもって交渉するということである。

☆ 推薦図書。
内田樹編著 「撤退論」晶文社 1870円
この書は歴史のパラダイム転換に向けて、内田氏ほか15人ほどの寄稿者が、それぞれ意見を述べている。テーマは、日本が人口減少や気候変動という国力低下が顕著な今、いかにして撤退して行くかを論じている。現実は少子化をどうするか、GDPを上げるにはどのような経済政策が必要なのかなどの前向きな議論が盛んだが、その前提は日本の国力は衰退していないである。しかし例えば人口だ、2004年をピークに減り続けている。人口減と高齢化は先進国では避けられない、そうであれば老人ばかりの国で、人がそれなりに幸せに暮らせるにはどうすればよいかというモデルを示す必要がある。経済成長至上主義からの「撤退」を決断しなければならない。撤退戦略とは「日本はこうやって被害を最小限に抑えた」という見本を示すべきだと。

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