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アメリカ人の最近の相続税対策~その2~

アメリカの相続税の非課税枠は今や543万ドル(6.5億円)にも拡大した。日本の相続税の非課税枠(基礎控除)は標準世帯で4800万円まで減少したのと対照的だ。

 

オバマ政権になる前までは100万ドルから200万ドルで非課税枠が推移してきた。アメリカでは信託を生前に作る(Living Trust)のが慣習だが、 特に相続税対策としてTrustは有効である。最近の拙著「信託の活用事例と税務の急所」(清文社)にもアメリカの信託を使った相続税対策を十数例書いたが、その中にA/B Trustというのがある。アメリカでは配偶者は、いくら相続しても相続税はかからない。以前は200万ドルが非課税であったが、仮に妻が全財産を相続した場合でも、この200万ドルを使う必要がないが、次にこの妻が死亡したときには子が200万ドルの非課税枠しかないので、夫が死亡したときに妻が使わなかった200万ドルを子に残しておきたいとして、A/B Trustを仕組んだ。そうすると、このTrustを引き継いだ子はTrustの200万ドルと本来の非課税枠200万ドル、あわせて400万ドルの非課税枠を持つことになった。

 

ところが現在では、オバマ政権により、このTrustを組まなくても、残った配偶者の非課税枠を継承できるようになった。いわゆるPortability法である。非課税枠も543万ドルに拡大されたこともあり、Trustを組む人が少なくなった。但し、このPortabilityを利用するには夫が死亡してから9か月以内にForm706を申告し、未使用金額をクレームしなければならない。また、以前にA/B Trustを作った者は、Trustに残された資産(例えば200万ドル)は残った配偶者へのトランスファーではないので、このTrustをキャンセルしなければならない。

 

贈与についても非課税枠は543万ドルなので大丈夫と考える人が多いが、あくまでもこれはFederal Tax(連邦税)、国税である。一方、日本と違って地方税の相続税があり、その非課税枠は州によってまちまちである。全米で19の州およびワシントンDCが相続税を課している。2、3の州を除いて連邦の相続税の非課税枠を下回り、ニュージャージー州、マサチューセッツ州、オレゴン州では100万ドル以下で、しかも最高税率は16%。また連邦税のようにPortabilityはないので、依然としてA/B Trustは有効である。一方コネチカット州を除いては、贈与税は州税としてはないので生前贈与は有効である。さらにどの州も相続税の非課税枠は拡大傾向にある。

 

まったく日本と逆方向である。というより、欧米では相続税・贈与税の減税化傾向が鮮明である。これは筆者が何度も言っているが、富裕層を大事にすることにより、「投資」と「雇用」が拡大するという哲学が欧米にはあるからだ。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
中島義道著 『善人ほど悪い奴はいない』 角川書店 724円+税
この本はニーチェの人間学を基に書いているが、必ずしもニーチェの哲学を肯定しているわけではない。
そもそも善人は弱者であることから定義しているとする。その弱者とは、自分が弱いことを骨の髄まで自覚しているが、それに自責の念を覚えるのでもなく、むしろ自分が弱いことを全身で「正当化」する人のことである。これはオルテガの「大衆」の定義と同じであるが、大衆とは、良い意味でも悪い意味でも、自分自身に特別な価値を認めようとはせず、自分は「すべての人」と同じであると感じ、そのことに苦痛を覚えるどころか、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出しているすべての人のことである。弱者は、これは「私が弱いから」という理由を、臆面もなく前面に持ち出して、それが相手を説得し自分を防衛する正当な理由だと信じている人、自分が社会的に弱い立場あるいは貧者にいることに負い目を感ずることがまるでなく、それから脱する何の努力もせずに、むしろ自分の弱さや富裕でないことを当然のごとく持ち出し「弱者の特権」を要求する人のことである。善人は自分の弱さを正当化するもので、強者は至るところから絶えず批判を浴び、そのことに慣れざるをえないが、弱者に対してはみんな腫れものに触るように対処するので、ひとたび批判される(本当のことを言われる)とびっくりして声も出なくなる。だから弱者はますますのさばり、反省しないのである。
この本はニーチェを超えるのではないか。現代人にとってこれは必読の書であると思う。

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