約1か月ぶりのブログである。別に休んでいたわけではなく、少し言い訳をすると、年末年始と日・祭日は原稿書きに追われていたのである。この3週間余りで「こう変わる 平成27年の税制改正」(実務出版)、「住宅・土地税制がわかる本 平成27年度版」(PHP研究所)、「税理士のための信託と税務」(清文社)と、3冊の本を書き上げた。
さて、本題に移ろう。今、世界で最も人気のある市長の一人であるジョンソン(Boris Johnson)ロンドン市長。彼はキャメロン(David Cameron)首相の後継者と目されている。ところが、アメリカ国税庁(IRS)から脱税の告発を受けていて、ロンドン市長はIRSと徹底的に戦うと明言した。
アメリカ税法によれば、米国市民権保持者とグリーンカードホルダーは世界のどこに住んでいても米国で申告・納税する義務がある。当然、二重課税防止のための税法は整備されている。実は、このロンドン市長はアメリカで生まれ、5歳のときにイギリスに渡った。アメリカ国籍法によれば、アメリカで生まれた者は自動的にアメリカ市民権取得となる。したがって、今回の騒動もアメリカはこの点を突いてきているのである。
ロンドン市長は少し前に自宅を売却した。アメリカの税法に従えば、売却前5年のうち2年以上住んでいる家を売却した場合、居住用不動産の譲渡益から独身者で25万ドル(3000万円)、夫婦だと50万ドル(6000万円)の特別控除がある。(日本でも3000万円の特別控除がある。)ところが、ロンドン市長の自宅売却はもっと譲渡益が出たらしい。イギリスの税法では、最初の自宅の売却では、それでいくら儲けようと譲渡益は非課税なのである。ロンドン市長によれば、自国でも税金がかからないものを、何でアメリカに払わなければならないのだと息巻いているといいう。
IRSは彼をOffshore Voluntary Disclosure Program(OVDP)ではないかと疑って、ロンドン市長もアメリカの税金が延滞になっているのを一部認めている。このほど、IRSから受け取ったレターがBILLなのかFinal Noticeなのか、彼は言っていないが、もし、アメリカ税法Section 6303によるFinal Notice and Demandであれば、アメリカは国家威信にかけて告発して税金を回収するであろう。
この事件は、ロンドン市長が自宅を売却したという情報をアメリカが掴み、その申告をIRSが待っていたが、それについては申告されなかった。このような場合、市長がいくらで買った自宅を売却したのかわからないから、IRSは勝手に申告書を作成する。だいたいこの方式だと、IRSが有利になる譲渡益課税を算出する。これをSubstitute of Returnと呼び、海外にいるアメリカ市民権保有者やグリーンカードホルダーはこのような申告をよく受け取る。
このロンドン市長は8年前にアメリカ市民権を捨てると発言した。これはテキサスで飛行機を乗り換えてイギリスに出国する際に、イギリスのパスポート使用が認められなかったので、怒り心頭に達したようである。しかし、アメリカ市民はアメリカのパスポートを所持しない限り、アメリカを出国したり入国することはできないと法律に明記している。この有名な二重国籍のロンドン市長は、BBCの発表によると、2012年11月にアメリカのパスポートを更新しているではないか。
将来あるジョンソン・ロンドン市長がIRSと事を構えるのは得策ではないとマスコミは言っている。多分、IRSに税金を払うことになるのは目に見えている。アメリカのIRSをなめると大変なことになる事例は枚挙に暇がない。ロンドン市長はアメリカ市民権保有者という全世界的に考えれば、アメリカの後ろ盾を得る特権を捨てることはないとイギリス国民は考えているようだが、はたして日本で首相や都知事がアメリカのパスポートで入出国しているような事態の発想さえもない。二重国籍を禁じている数少ない国、人口減問題もさることながら考え直す時期に来ているように思うが。
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