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アメリカ税制改正によるコロナ節税

今年3月に行われたアメリカの新型コロナウイルス感染症による景気刺激対策の中で、法人にとって、大きな税制改正があった。日本も同様なのがあったが、これはコロナで赤字になっても、昨年黒字が出ていればそれと相殺し、税金が還付されるというもの。アメリカ・トランプは日本と比べものにならない規模で、過去の赤字及び今年の赤字を過去5年の黒字に遡り相殺できるという改正である。しかも税務上の大きな利点と言えば、現行の法人税率21%ではなく、2018年以前の35%の法人税率で還付が受けられることにある。つまり、2020年に赤字を計上するのであれば巨額な赤字を計上せよということである。例えば2020年の100万ドルの損失は35万ドルの税金還付になるが、2021年に同じ損失を出したとしても21万ドルしか戻らないことになるので、何としても今年中に巨大赤字を作ったもの勝ちである。

実はトランプ政権1期目、2017年の税制改革では赤字額を過去5年に遡り相殺することが出来なくなり、その代わりに将来永遠に相殺できることに改正された。ところが新型コロナウイルス感染症・パンデミックによる会社救済のため、何の条件も無しに、3月の税制変更により過去5年にわたり税率35%で相殺可能となったのである。これにより、2018年及び2019年の赤字だった会社は直ぐに過去5年に遡り相殺し、還付を受けはじめた。これは勿論、過去は黒字で内部留保が十分あり新型コロナウイルス感染症・パンデミックの影響で赤字になっているだけで、直ぐに倒産しないような会社に最も恩恵があるが、新型コロナウイルス感染症とは関係ない2018年及び2019年の赤字に関わる還付を受けている企業もかなりあり、既に上場企業20数社がこの税率裁定を利用し20億ドル(2,000億円)以上の還付を受けている。

FedExは既に7,100万ドル(73億円)の還付を計上しており、今後会計上の変更により更に1億3,000万ドル(140億円)の還付を受ける予定だという。FedExは今年5月時点で現金を49億ドル(5,000億円)保有し、これは昨年よりも倍の金額となる。またMarathon石油は3億900万ドル(3,200億円)、Assurant保険会社は7,900万ドル、Jet Blueは3,500万ドルの還付を受けると有価証券には記載されているという有様。過去には損金控除を多くし、売上を引き延ばすことについては、税率が変わらず、金利が低い環境下ではあまり効果はなかったが、今年は全く違う。35%の税金が戻ってくるのだ。

トランプの2017年の税制改革では、設備投資を何年もかけて償却するのではなく一度に償却(即時償却)が可能となった(日本では無理)。今年3月の税制改革により、このような設備投資を更に行い赤字を出す企業が多くなるのは想像に難くない。この時とばかり税金戦略に知恵を使う企業があまた出現する。例えば、保険料を何年もかけて払うのではなく、前払いで何年分を払うとか、また売上であれば、例えばギフトカードの売上収入を売った時ではなく使用された時に売上計上する等、売上の繰り延べを行う、また、回収できない売掛金を精査し出来るだけ償却する等、会計処理変更を行うところも多く出てきている。今や、アメリカでは、ビジネスオーナーは新型コロナウイルス感染症・パンデミックによる救済ローンを政府から受け取ることを考えるよりも、税金の還付金をどれだけ多く受け取れるかを考え始めたようだ。

このような現象に対し、バイデン・民主党は反対しており、コロナ救済策第2弾ではこの税制緩和を廃止したものを下院(民主党多数)で通過させている。共和党が過半数を超える上院でどうなるか、今後の行方を見守りたい。

☆ 推薦図書 ☆
熊谷亮丸著 『ポストコロナの経済学』 日経BP社 1600円+税
新型コロナウイルス感染症が収束すれば、元の世界が戻ってくる。これは完全な幻想である。歴史的にみると、感染症の拡大とグローバリゼーションはセットであり、今後も人類は様々な感染症に悩まされ続けることになる。そしてコロナ後は世界経済に劇的な構造変化を引き起こす。

ポストコロナの時代には以下の8つのグローバルな構造変化が起こるとしている。
① 株主の利益中心から利害関係者重視のステークホルダー資本主義に移行する。
② 格差がますます拡大し、自国中心主義になる。
③ 米中露の対立のように、資本主義と共産主義の覇権争いが先鋭化する。
④ コロナの教訓から、感染症拡大や気候変動など様々なリスクを考慮したグローバル・サプライチェーンを再編する動きが起きる。
⑤ 金融緩和が長期化し、債務超過拡大などで金融危機の危険性が高まる。
⑥ 大きな政府が指向され、財政赤字が深刻化する。
⑦ リモート社会が加速し、産業構造に変化が起こる。
⑧ 感染症に対して脆弱な「中央集権型システム」から「分散型ネットワーク」へ転換が進む。

近い将来、テレワークや遠隔診療などが当たり前となり、かつて多くの会社員が満員電車に揺られて通勤していたことが、昭和・平成の日常の一コマとして、日本史の教科書に載る日が来ると言う。

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