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アメリカの消費税徴収事情

日本の消費税率は8%だが、来年には10%に上がる予定である。日本では消費税率を1%でも上げるとすれば、てんやわんやの大騒ぎで、国会はそれで解散し、天下国家を揺るがす事態となる。外国はどうかというと、こんな騒ぎにならない。今年アメリカ、ロサンゼルスに行ったら知らぬ間に税率が上がっていた。ヨーロッパでは、ほとんどのEU諸国では20%台だ。欧米で消費税率を上げるのに、大した議論にもならない。消費税は国民等しく負担する税であるからだ。ところが日本は、所得の高い人は低い人より、より多くの税負担をするのが当然だという考え。持てる者はより多く出費せよ。所得の高い人はどれほどの努力をしているかは、関係ない。つまり、「ねたみ社会」の典型例がこの消費税に出ている。サミット参加国からは、今や消費税の問題はなくなっているにもかかわらずだ。

 

ところで、消費税は日本では国税だが、アメリカでは地方税なのである。したがって、州によってまちまちの税率だ。そうしたことから、州境に住んでいる者は、隣の州で数パーセント税率が低いとなると、わざわざ何時間もかけて隣の州へ買い物に出かけるのも珍しくない。

 

そうしたことから、低い州に本社を置いて、通信販売やネット販売などを行えば会社にとって非常に節税できる。かつてアマゾンがこの問題を引き起こした(このブログで過去に書いた)。この問題は消費税に多くの税金を頼る州では大問題である。かつてアメリカ最高裁は、「州内に物理的拠点を持たない事業者は、法に照らして、当該州と十分な接点を持っているとはいえない」とした。当該州での消費税の納税を免れたのである。これは25年前の判決である(Quill Corp. v. North Dakota, 504 U.S. 298)。

 

ところが、今やインターネットの時代である。物理的拠点などは時代錯誤で、この判決は逆に混乱を助長しているとして、このほどアメリカ最高裁は「州内に物理的拠点を持たない事業者に対して消費税の徴収義務を課すことができる」と、前判決をひっくり返した(South Dakota v. Wayfair, Inc., Dkt. No. 17-494)。そのため、これまでも多くの州が「クリックスルー・ネクサス」(これは、インターネットなどで州内のブローカーなどが州外の販売業者に代わり販売に係る行為を行う場合、ネクサス(事業者関連性))を有するとされ消費税の徴収義務者となるというもの)を制定している。

 

広いアメリカのこと、今回の判決を受けて全州で、物理的拠点を持たないインターネット関連業者が、当該州で客を持つ場合、消費税の徴収や販売免許を取得する必要があるとされていて、特に問題なのは、アメリカ国外の業者をどう取り扱うかが焦点になってくると言われる。

 

アマゾンやフェイスブックなど、全米50州にどうやって消費税を払うのだろうか。私はアメリカ的決着を今回の最高裁判決を受けて、見たいものである。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
イアン・ブレマー著 奥村準訳 『対立の世紀 グローバリズムの破綻』 日本経済新聞出版社 1800円+税
この本はグローバリズムとナショナリズムの対立を、いろんな角度から書いている。ヨーロッパでは極右政党が台頭している。安い賃金で働く移民への反発。国境がオープンになり、異民族が流入する。その中には犯罪者やテロリストもいる。そして彼らに仕事は奪われ、年金や医療制度は崩壊する。世界は良い方向へと向かっていると感じているのはアメリカ国民の6%、イギリスでは4%しかない。
アメリカでは人々を中間層へと引き上げてきた職業が消滅しつつある。ロボットやAIの進歩は、ある種の企業は利益を上げられるが、仕事を失う労働者たちはその恩恵にあずかることはない。現在アメリカの雇用は、中国やメキシコの安い賃金の労働者に奪われてきたのではない。ロボットに奪われたのだ。マッキンゼーによれば、数年後にフードサービス業と宿泊業の雇用の73%が自動化される。金融業と保険業の3分の2が消滅するのは、中間層が減っていくとうことである。
グローバル化は、人も動かし、人種、民族、宗教にまで影響を及ぼし、国民の不安を煽る。これらに対処するため、強い国民意識(ナショナル・アイデンティティー)が存在する。その結果、両者には「壁」ができる。そしてグローバル化の流れを阻止しようとする。仕事や産業を守っているように見せるために、保護主義者が着々と増えている。イスラエルのように実際600㎞を超える壁を作って、壁の内と外を分断させる。人の移動への障壁もできる。そして、最も新しい種類の壁が、同じ社会の中で人々を分断する壁なのだと。

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