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事業承継税制の改正、本当に効果があるのか

日本の相続税は世界で稀に見るほど辛い税制である。最高税率55%であり、残された遺族が受領する遺産より、国に持って行かれる遺産の方が大きい。しかも最も大きな問題は、国が持って行く遺産は現金、預金、上場会社株式であり、残された遺族には、売れない不動産や経営していた会社の株式であり、換金価値がほとんどないが、相続税評価額だけが高いというもの。きわめつけは中小企業の株式である。優良会社であれば考えられないほどの価値を税務当局が付けるが、そんな価額で他人は誰も買ってくれない。オーナー経営者が亡くなって、後を継いだ息子が、その株式の相続税が払えなくて倒産したとか破産したとかの例は枚挙にいとまがない。

 

こうした事態になれば、オーナー一族だけでなく、そこで働いていた従業員も失業することになり、また、優秀な技術も失われることになる。それをくい止めるべく国は、中小企業の代替わりが無理なく行われるように「事業承継税制」なるものを10年ほど前に立ち上げた。中味は、中小企業株式の相続税・贈与税の納税猶予制度である。中小企業の経営者一族は、この規程を守れば、その企業の発行済株総数の3分の2を限度として、その80%を猶予するというもの。例えば、評価額が10億円の株式を100%所有している父には、その3分の2の6億7千万円、その80%で約5億3千万円分の株式まで納税を猶予する。その前提は、息子が父の株式を譲り受けてから5年間、その時の雇用者の80%以上を維持しなければならないという制度である。

 

平成30年度税制改正では、この例の会社では10億円のうち納税猶予されるのは10億円×3分の2×80%の5億3000万円だけである。残りの4億7000万円には普通の相続税がかかる。これを100%、10億円そのものを猶予するとした。さらに雇用を80%キープする条件であるが、この人口減少、特に生産人口が大きく減少している最中、また、AIが出現するに及んで従業員数の確保が困難とみられることから、これは撤廃された。後はキチンと経営せよという他、一定の要件があるが、経産省、財務省などは、中小企業の経営者の平均年齢が65歳以上となるなか、画期的な改正であると、本年度の税制改正の目玉として謳い上げた。この前、佐川国税庁長官が辞任するなど、財務省もざわついているが、この改正も視点がずれている。

 

中小企業、非上場会社の事業承継を困難にしているのは、株式の「評価」である。誰も買わないような高い株式評価になるからである。相続税法第22条に、遺産はすべて「時価」で評価せよとある。アメリカなどでは評価の専門家が評価を行う。日本は「時価」と決めておきながら、例えば土地であると、お上が決定した「路線価」、建物も、お上が決めた「固定資産税評価額」で評価を行う。中小零細の会社は、「類似業種比準価額」や「純資産価額方式」など、すでに時代遅れの基準で決定している。類似業種などは、同じ業種で上場会社の株価を基本にしている。東京証券取引所では「建設」や「水産」「銀行」などの業種ごとに上場会社が並んでいる。これは日本だけである。ニューヨーク証券取引所もABC順である。業種に関係ない。例えば、東レは繊維であろうか。ヤマダ電機が電気自動車を作ろうとしている。ソフトバンクや楽天はこの業種なのか。今や完全に時代遅れのカテゴリー別「類似業種比準」、日本だけしか作れない。

 

日本の税の世界の「時価」とは役所が作成した「財産評価基本通達」。このような通達は先進国には存在しない。アメリカでは非上場会社の株式など、ほとんど価値を持たない。仮に価値を持っていたとしても、誰も正確に計算できない「含み益」である。国も課税したければ、その株を売却した時に課税すればいい。キャッシュが入っているので、納税には困らない。国は「事業承継税制の改正」を自画自賛で言うが、そもそも、ありもしない含み益に高い相続税・贈与税をかけているからで、AIやビットコインが席巻している先進国日本、そろそろ60年近く続いている日本独自の評価基準を見直さないと、優秀な外国人も日本で起業することはあり得ないかもしれない。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
『許永中の告白「イトマン事件の真実」』 文藝春秋4月号
時の政界を巻き込み、過去の悪行から、バブル時代、在日韓国人実業家として存在が知られるようになったきっかけは、1991年の「イトマン事件」である。総合商社イトマンから3000億円が闇社会へと消えた。いわゆる「戦後最大の経済事件」である。許はイトマンとの絵画取引をめぐる特別背任などの容疑で大阪地検特捜部に逮捕された。その後、1997年の「石橋産業事件」で許に手形をだまし取られたとして東京地検特捜部に逮捕され、2005年に収監された。
この誌では、住友銀行の天皇といわれた磯田頭取をはじめ、イトマンの河村社長、伊藤専務はもちろんのこと、浜田幸一、中山正暉、亀井静香、などとの関わりの他、在日の東声会の町井、柳川組の石井、住吉会の堀、会津小鉄会の高山との交流など、日本の裏社会を詳しく述べている。驚くのは、現オリンピック委員会会長の竹田氏の名前も出てくるのでビックリである。

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