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アメリカも相続税対策封じ込めか

今回のブログの内容も日本の報道機関は一切報じていない。私のブログが最近、大手報道機関にパクられることが多くなってきたようだ。喜んでよいのか、悲しむべきか?

 

さて、アメリカ財務省とIRS(アメリカ国税庁)は、アメリカ富裕層が通常、節税手段に利用するInternal Revenue Code Section 2704の大幅な改正案と“ Valuation Discount ”を制限する提案を議会に諮った。日本では遺産総額4,800万円程度から相続税がかかるが、アメリカでは545万ドル(5億5,000万円)、夫婦合算で1,090万ドル(11億円)以下の遺産なら全く相続税がかからない。ただし、その枠を超えると超えた額に対して一律40%の相続税がかかる(日本は最高55%)。今回の改正案は、その40%がかかる者がターゲットである。

 

“ Valuation Discount ”を説明すると、会社オーナーが自社の持株の評価額を下げるために用いられる手法で、Family Controlled Corporations、 Family Limited Partnership(FLP)、Family LLC等の組織を設立し、その組織のオーナー株主が死ぬ直前に、株式持分が過半数を僅かに下回る程度に家族へ贈与する。これによりオーナー株主は少数株主に転落し(日本では考えられないが)、その組織のコントロールを失うことで、株式評価額が大幅に下落し、相続税の対象外となる。この方式はアメリカではむしろ一般的で、相続税の申告後、3年以内に税務調査が来なければ、もし来たとしてもクリアすれば、相続税の税務調査も時効となったところで、その組織を解体し、その被相続人が所有していた株式を相続人で分け、再びオーナー経営者が出現することも多々ある。

 

そんなわけでIRSは、死ぬ直前に大掛かりな節税ができるような税法を改正し、少なくとも死ぬ3年以上前にこのような対策をしないと節税を認めないとする改正案を上程しようとしている。この節税策は、株式はもちろん、上場株式、現金や預金にまで応用できるため、乱用が横行しているので規制に乗り出すのだ。

 

しかし、それよりも大きな改正案が出ている。“ Disregarded restriction ”といわれるもので、株式持分の流動性に制限が発生した場合、例えば日本では譲渡制限付株式や、売却できない株式になった場合、上記の“ Valuation Discount ”が可能だったが、被相続人の死後、遺族等がこの制限を撤回する権利を有するのであれば、株式の評価減は制限されるというもの。このような改正案に対して、税務専門弁護士(アメリカでは税理士はないため弁護士が行う)達は、まっとうな同族会社にとってこれらの改正はビジネスによい影響を与えないと反対の姿勢をアピールしている。(日本の同族会社や医療法人はもっとひどいが)

 

アメリカ財務省は11月1日まで広く意見を聞き、12月1日に公聴会を開く予定である。日本の税制改正の場合は、富裕層や資産家の声を聞くわけではなく、政府税制調査会も自民党税制調査会も、税収確保と低所得者救済、働く女性に有利な税制などとの一般受けの税制を優先させる(選挙のため)のが目的なので、富裕層に対する課税が年々重くなっている。日本では金持ちは悪いから搾り取るという税制である。資産家に減税すると、金持ち優遇税制だとしてマスコミも叩く。これでは世界の富裕層は誰一人として日本に住もうとはしないであろう。アメリカの富裕層に対するこの改正案も、世論調査では否決されるとしている。アメリカは金持ち優遇税制なのであるアメリカに世界の富裕者が集まる一因であるかもしれない。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
小野寺時夫著 『人生の最期を医者任せにするのはやめなさい』 PHP研究所 1,400円+税
著者は東京の日の出ヶ丘病院の医師で、私は直接先生からこの本をいただいたのだが、とても86歳に見えない。知っておきたい終末医療の真実の本である。
どうすれば心穏やかに自分らしく最期の日を迎えられるのか。死ぬときは苦しまず、安らかに逝きたいと誰もが願っている。死に直面して、痛みなどの身体的苦痛や死に対する精神的苦痛がもっとも問題になる「がん」。日本人は死を受け入れることができず、最後まで死に抵抗し、無念さや死の恐怖で苦しむ人が多い。これには原因があり、1つめは、医師が心の通じ合った医療を十分していない。2つめは、患者の死生観が確かでないうえに、宗教心が強くないこと。3つめは、死に近づく人の「心のケア」をする病院や社会の体制がないとのことである。著者自身ががんを体験し、6年前に妻を亡くした。がん治療のやり過ぎが目立つ。抗がん剤の効果は期待できないから、痛みなどの苦痛を我慢するとかえって早死にする。限りある生を後悔せず過ごすにはどうすればよいかを問う本である。

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