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アメリカIRSが個人情報を世界へ発信、の不思議

アメリカ人が国外に1万ドル以上の金融資産を保有している場合、毎年、IRS(アメリカ国税庁)にその明細を報告しなければならないという法律、FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)が2010年に発効された。

 

Wall Street Journal誌やLos Angeles Times紙によると、税を逃れて、これによって捕まったアメリカ人約5万人が、IRSが設立した限定的恩赦プログラムに参加し、隠蔽したオフショア口座に関わる税金(未納分)70億ドル(8400億円)が現在も分割納付され続けている。

 

アメリカの権力発動によって全世界の銀行がアメリカ人口座の開示を余儀なくされているが、このほどIRSは、世界中の国から情報をもらっているので、逆にそれらの国の者がアメリカ国内にある金融機関に財産がある場合は、その国に対して自動的に通報してあげよう、とした。これは世界中の税務当局との関係を変えるものであり、諸外国も脱税者を補足するのに役立つであろうと自画自賛しているが、一部政治家や弁護士はこれに猛反対している。なぜならば多くの国はアメリカほど政治的に安定しておらず、もしアメリカに大きな財産があると知れたら、政府の企みによって危険にさらされる恐れがあるという。特にラテンアメリカや中東が危険だとしている。IRSは厳しい保護規定があるので、これらの国々との情報の共有はしないと言っている。共有される情報としては、名前、住所、納税者番号、口座番号、口座残高、配当および利息となっていて、これらの開示は一定の残高のある人たちが対象となる。

 

FATCAが発効してから、OECDでもFATCAに従い、同様な情報共有システムを開発している。OECDによる“Common Exchange Standard”なるものはFATCAと同様のシステムと期待され、情報共有が開始されるかもしれない。

 

さて、IRSが金融情報を共有するとしたのは34か国である。その34か国とは(ABC順)
Australia, Brazil, Canada, Czech Republic, Denmark, Estonia, Finland, France, Germany, Gibraltar, Guernsey, Hungary, Iceland, India, Isle of Man, Italy, Jersey, Latvia, Liechtenstein, Lithuania, Luxembourg, Malta, Mauritius, Mexico, Netherlands, New Zealand, Norway, Poland, Slovenia, South Africa, Spain, Sweden, United Kingdom
こんな国もあるんだと思われた人は多いと思うが、こんな国ほどタックスヘブンになっていたわけである。Brazilなど開示して大丈夫かなと思われる。

 

ここで不思議なのは“Japan”がない。日本とアメリカが締結している契約はModel 2 IGA(Intergovernmental Agreement)というもので、これは双務契約ではないので日本はアメリカに対して、日本に住むアメリカ人の個人金融資産情報をアメリカに提供する義務はあるが、アメリカは日本に対して日本人情報を提供する義務は一切ない。どうしてこうなっているのかわからない。しかしこれによって、どんどん日本人は金融資産をアメリカに移転している。不思議である。

 

 

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ロバート・スティーヴン・カプラン著 福井久美子訳 『ハーバードの“正しい疑問”を持つ技術』 CCCメディアハウス 1,600円+税
著者は元ハーバード・ビジネス・スクールの教授。その教授時代に培った企業幹部やリーダー達との関係から、うまくゆくリーダーとうまくゆかないリーダーがいるのが判明した。卓越したリーダーシップを発揮するカギは、答えを知っていることではなく、いかに「正しい疑問」を持てるかどうかである。会社の成功には、人材の育成・管理が不可欠であり、部下を育てるには「コーチング」を活用する。会社の内外で起こる変化に応じ組織にズレが生じていないかチェックすることは、リーダーにとって最も重要な任務である。しかし最もリーダーにとって、貴重な資産は「時間」である。この資産は有限で一度使うと補充できない。うまく時間を使えていないとき、大抵の場合、優先事項をしっかりつかめていなくて、しかも意識していない。時間の使い方を常にチェックする心構えが必要なのだ。

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