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アメリカの失業者と日本の失業者

ウォール・ストリート・ジャーナル誌によると、アメリカの不動産の平均住宅流通売買価格は26万ドル(3200万円)台に上昇したという。これはリーマンショック前の2007年の水準に回復したということだ。統計上、新規住宅着工件数が伸びていて、不動産市況は活況を呈しているとみられる。我がオフィスのあるロサンゼルス周辺もウエストサイド区域(ブレントウッド、ビバリーヒルズ、サンタモニカ、ウエストハリウッド等)の住宅価格が過熱していると言われている。アメリカ経済は、先週の失業保険申請者数が25万5000人と1973年以来、最低を記録したということで、アメリカのジョブレスレシオ(失業率)は5.3%となった。ちなみにカリフォルニア州は6.3%、テキサス州は4.2%となっている。

 

このような好状況を反映して、労働者の最低賃金を引上げることになった。カリフォルニア州では時給8ドル台であったのが、2016年には10ドル、ロサンゼルス市では2016年7月から10.5ドル(1260円)、2020年には15ドル(1800円)まで時給が上がることになる。参考までに日本の平均最低賃金は時給798円である。

 

ロサンゼルスタイムズなどによると、ロサンゼルスのダウンタウンの南にはガーメントディストリクトと呼ばれる裁縫工場が密集している地域がある。この地域に最低賃金の引上げは経済的打撃を与える。ここは、古くからロサンゼルスに住んでいる人たちはよく知っているが、もともとユダヤ系アメリカ人がこの仕事を独占していた。その後、韓国系アメリカ人が多く流入し、最近ではMade in LAを売り込む白人系のジーンズ会社が参入し、有名地区となった。しかしよく考えれば、これらの生産工場で働く人々はメキシコ移民者である。メキシコ人移民は、時給10ドルはおろか、時給最低賃金しかもらっていない。最低賃金が15ドルになると彼らは潤うのか?

 

最近の調査では、最低賃金が15ドルとなると、これらの工場はロサンゼルスから撤退すると宣言している。経営者は15ドルでは採算が合わず、中国やアジアで生産した方がよいと考えている。最低賃金の上昇は労働者に歓迎されているが、それが果たして貧富格差や失業率の改善につながるのか大きな疑問である。日本とアメリカで失業率のパーセントだけを論じるのは意味のないことだが、アメリカでは単純に最低賃金の引上げは、日本のように低所得者に歓迎されない。超最低所得者だけに限れば日本人はアメリカ人よりも、よほど恵まれていると思われる。生活保護という選択肢もあるからだ。

 

 

☆ 推薦図書 ☆
半藤一利 他著 『「昭和天皇実録」の謎を解く』 文春新書 880円+税
「昭和天皇実録」は宮内庁が24年5か月の歳月をかけて編集した全61冊、約1万2000ページにも及ぶ。2015年3月にその最初の二冊分が刊行された。あと5年かけて全19冊で完結する。私などは気の遠くなる膨大な量で、トルストイやドストエフスキーの長編小説の比ではないことから、この天皇実録を読むのを諦めていたが、この著は、この天皇実録のダイジェスト版というべき実にうまくまとめている。太平洋戦争を決意したのはいつか?二・二六事件で武官長を41回も呼んだ理由や、満州事変の拡大は防げたのか、などの史実から浮かび上がる真実を垣間見ることができる。その一方で、昭和天皇の幼い頃、せっかく巣を作ってあげた白ハトを猫にさらわれ、「敵を取る」と二日間捜し回ったことや、戦争中もリンカーンの像を居宅に飾り、侍従が周りの声を気にしても「いいのだ」と取り合わなかったとある。しかし、戦前、前後の昭和史の研究にはこの「昭和天皇実録」は欠かせないとしている。

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