先月、米国ナスダックのバーナード・マドフ元会長によるヘッジファンドを通したねずみ溝詐欺事件がFBIによって摘発された。被害総額がなんと5兆円、被害者は5,000人を超えるのではないかと見られている。そして被害者はこの損失を税金の還付に充てられないかと、IRS(国税庁)とわたりあっている。
日本は今、確定申告の真っ只中、3月15日(本年は日曜日にあたるため16日)の期限を前に、会計事務所は大忙しの毎日であると思われる。アメリカは4月15日が締め切りだが、アメリカ歴史上かつてない詐欺事件にFBIとIRSは混乱している。
同様に日本では「円天」の事件があり、さらに「振り込め詐欺」は現在も後を絶たない。私の周りにそうした被害者がいないので何とも言えないが、彼らはただ警察に被害届けを出してそのままだろうか、損したカネはほとんど戻ってこない。それならその損したカネを確定申告に活かせないだろうかと米国的に考えてみると…。
日本の所得税はどうなっているかというと、「雑損控除」(所得税法72条)というのがある。「日常生活に必要な住宅、家具、衣類、現金などの資産について受けた損害」について、所得金額から控除するというもの。つまり、地震や災害で家や家財が被害を被った時は適用できる。しかし、その時でも、書画、骨董や1個30万円以上の貴金属は対象外。また盗難や横領による損失は適用されるが、詐欺または脅迫による損失は対象外なのである。そうなると、「円天」や「振り込め詐欺」による損は、日本では全く税金で救済されないのだ。「欲をこいて損をしても国は面倒をみない」主義は明治の税法から一貫している。しかし「円天」による損害を「盗難」と解釈しようとしているのがいかに書いていることである。
一方、アメリカでは、マドフ事件をIRSはどう取り扱うのだろうか?未だコメントは一切出ていない。ところが、タックスアドバイザーはいち早く被害者に近づき、税金の還付を少しでも早く受け取れるように当方に相談して下さい、と新しい商売をし始めた。アドバイザーの言っているのは、Theft Loss(盗難による損失)として、とりあえずこの確定申告で損金計上する。アメリカでは通常のTheft Lossの場合、災害による損失と同様、純損失額から100ドルを差し引き、その金額が調整後所得の10%を超過する部分の全額を損失計上し、その金額が所得と相殺できることになっている。ただ、はたして、Theft Lossに該当するのかどうかは、甚だ疑問だが、タックスアドバイザーたちはそれでIRSとかけあうとしている。しかし、まだ損失額の確定には時間を要するので、とりあえず確定申告は延期(Extension)するというのが大半のようだ。(日本にはこの制度はない)
ウォール・ストリート・ジャーナル誌が記事で言っているのは、被害者の多くは、かなり長期間にわたりマドフに投資している。そうなると被害者は過去何年にもわたり、投資収入や金利を受け取り、その所得に対し課税され税金を払ってきたが、その投資収入や金利が実際は架空のものだったわけなので、過去の申告に対して修正を行い、その税金の還付を受けることができる反面、FBIは投資収入や金利と称したのは実は真っ赤なウソなので、その受け取った金を返還せよとなる可能性が高いというアドバイザーがいる。
またあるアドバイザーは、税金の還付手続をIRSに対して行う一方、このような損失に対して何らかの保険が適用できないかどうか検討するとともに、Security Investor Protection Corp(SIPC)に対して補償要求をする代行をすると言っている。
さらにあるアドバイザーは、3年の時効切れを防ぐために、2005年度の確定申告分から補償されるための請求を裁判に行うとしている。
国民性なのか、日本では被害者をどう救おうかは常に弁護団が検討し、直接加害者の残った資産から取ることだけを考えている。その結果、オレンジ共済やオウム真理教など何年も裁判したあげく、被害者一同に微々たるお金しか戻ってこない。
アメリカは、このような事件があると弁護士が個々に営業活動を活発にし、あらゆる方策を個々研究し、能力のある弁護士が付いた被害者が得るものが他の被害者より多くなる。日本は全て被害者平等、アメリカのいう自由と「平等」とは何なのかを日本人は考え直す時期に来ているのでは。
