著作権料と税金について考える

ロッシーニ歌劇団の初の海外公演が日本の渋谷オーチャードホールであり、「マホメット二世」が上演された。たぶん「マホメット二世」の観劇は日本ではなかろうと思っていた私は感激し、観終わった後も暫くは感動で動けなかったぐらいだった。いや、実に素晴らしかった。

 
少しロッシーニの話をすると、彼はモーツァルトに憧れ、13歳で6曲の弦楽ソナタ集を作った。それ以来、サン・モイゼ劇場で最初のオペラ・ブッファ「結婚手形」を上演したのが19歳、「セビリアの理髪師」「アルジェのイタリア娘」「イタリアのトルコ人」「エリザベッタ イギリス女王」「ウィリアム・テル」など数々のヒットを飛ばした。1824年に彼はパリ郊外に引越し、ここで「ウィリアム・テル」(グリエルモ・テルともいう)を書いたのが最後になったのだが、76歳まで生きたロッシーニがその最後の曲を書いたのが36歳。それ以来、全く作品を書かずに40年を過ごしたことになる。本来なら無収入のはずだが、40年間、彼はパリの社交界の重鎮として君臨した。かのバルザックを親友として遊び、45歳にイザベラと離婚し、バルザックの愛人で高級娼婦であったペリシェと再婚したりなんかした。ロッシーニは36歳で仕事を辞め、後の40年間をなぜ豪遊できたのか。ベートーベンやチャイコフスキーなどは死ぬまで働かなければ生活できなかったのに。
 
彼は世界で初めて、著作権料を印税という形で原作者の懐に入ることを考案した人なのだ。今でこそ知的所有権とか言われるが、彼は印税システムを最初に考えた人間で、オペラで彼の作品が上演される都度、湯水のごとく印税収入が転がり込んできたのである。とても貴族の発想とは思えない。
 
現代において考えると、著作権料=印税は個人の特殊な能力によるものであるので、必要経費は少ない。かつて松本清張や司馬遼太郎は納税者番付の上位の常連であったが、彼らはいつもぼやくように言っていた。「印税収入に対する必要経費は原稿用紙代とインク代だけで、印税収入の1%もない。全部税金対象だ」と。また、「超整理法」を書いた元大蔵官僚で教授の野口悠紀雄氏は、たまたま編集者との交際費を経費に落としたところ、税務署に呼び出され修正させられた。必要経費がほとんどない作家は本当に税金では丸裸である。
 
そこで、かつて問題になった人、松岡佑子さんと言っても有名でないが、世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」の日本語訳で知られる翻訳家である。彼女はスイスのジュネーブにマンションを購入し、新宿に所有するマンションから住民票を抜いてスイスに移した。スイス居住者だとして翻訳料を日本で申告せず、また発行元の静山社は彼女を日本の非居住者だとして、20%の所得税を源泉徴収しているだけだった。年間1800万円を超える高額所得者は所得税・住民税を合わせて50%、一方、日本の非居住者は日本で生じた所得の源泉徴収だけで済む。そして、スイスで申告すれば、スイスの所得税・住民税合わせても38%ぐらいになり、日本で納めた源泉徴収税額はスイスで控除されるので、かなりの節税になる。しかし、彼女は国税局の税務調査を受け、3年間に何と35億円の申告漏れを指摘された。翻訳だけでもこれほどの印税収入なるとは私も思わなかった。翻訳家でこれだけの印税収入なので、原作者のJ.K.ローリングはどれほどの収入なのか?見当もつかない・・・
 

話を元に戻すと、国税局は課税の根拠に、彼女は日本の非居住者ではなく居住者だとした。当局は「スイスに移住しているが、日本に1年の半分以上滞在して日本に住居を所有している」のが根拠のようである。考えてみれば当たり前だが、このような税法的なアドバイザーである税理士、会計士にもっと金をかけるべきだったと思われる。武富士の香港の問題もそうだが、国際税務を知る税理士、会計士は極端に少ないが、それも金をかけて探すべきで、まかり間違えば何億という額が吹っ飛び、マスコミにさらされることを考えれば、お粗末の一語に尽きる。知的なモノにお金をかけない国民性なのか。