日本で報道されない米国の相続税論争

今、アメリカでは大統領選挙の真っ最中である。

思えば、2000年の選挙でブッシュが当選した勝因の一つに、相続税を大減税するという公約があった。公約というのは当選後、毎年減税していって、2010年には相続税をゼロにするというもの。2011年以後はゼロにするかどうかは議会に聞いてくれと当時のブッシュが言った。その後、この問題に関しては米議会もさして動かなかったので、米国民は2010年は相続税がゼロの年なので、この年に亡くなる資産家は未来永劫、子々孫々に至るまで称えられるだろうとまで言った。
 
ところが、昨日のウォール・ストリート・ジャーナル誌に、オバマとマケインが今後の相続税をどうしたいかについての記事が大きく掲載され、大きな論議に発展する可能性が出てきた。日本も来年、相続税法が大改正され、実質増税になるのは疑う余地もないが、アメリカではオバマ(民主党)もマケイン(共和党)も相続税法の改正について、ほぼ同じ主張を掲げているのには驚いた。
 
日米とも相続税率は累進課税で、日本の場合配偶者は2分の1まで非課税、アメリカは配偶者の取得分は全額非課税となっている。どちらも一次相続で配偶者により多くの遺産を相続させた方がその時の相続税額は安くなる。しかし一次相続で多く取得した配偶者が亡くなると、今度は配偶者がなく、相続人は子だけになり、より重い累進課税が適用されるので、一次相続で配偶者控除をめいっぱい使わないように配慮しなければならない。
 
日本の相続税の非課税枠(基礎控除)は、5000万円+1000万円×法定相続人数である。配偶者と子が2人なら8000万円の遺産まで申告不要となる。アメリカの場合はこの非課税枠が今年は200万ドル(約2億円)、来年は350万ドルである。そして再来年は相続税がゼロとなるシナリオだが、オバマ、マケインともに、この相続税の非課税枠をポータブルにするという主張。つまり片方の配偶者が非課税枠を使用しない分、残った配偶者にその非課税枠を持ち込めるというもので、仮に片方の配偶者が全く非課税枠を使用しなかった場合は、今年400万ドル、来年700万ドルまで非課税枠が拡大する。今まではトラスト(このトラストをA/Bトラストというが)を利用しなければできなかったものを、よりシンプルにできるというものである。さらに2010年に相続税がゼロになるという、富裕層が最も喜んでいる税制についても、ゼロになるといった共和党のマケインも、ゼロは止めてその代わり2010年の非課税枠を500万ドル、相続税率の最高は15%、オバマは非課税枠を350万ドル、最高税率は45%にすると主張している。マケインの主張はかなり遠慮がちだが、オバマは2010年も例外扱いにしないと言っている。富裕層にとってはぬか喜びだった。
 

従って、どちらが大統領になっても、2010年は相続税がゼロにならないのは確実になった。共和党は嘘をついたとウォール・ストリート・ジャーナル誌は見出しで書いているが、オバマは当選すると、富裕層の反感を買うようなことをしないので、同誌は相続税率はどこで落ち着くのか全くわからないと書いている。このように、アメリカでは富裕層が嫌がる税法を通したがらない。選挙資金に影響するのと、候補者もまた富裕層なのからだろうか。