先日のウォール・ストリート・ジャーナルにこのような見出しが大きく掲載された。最近このブログは、新しく成立するであろう法律を前もって読者にお知らせしていたが、今回は少し肩が凝らないアメリカの話をしてみよう。
このNew Lowとは何かと言うと、日本には存在しない法律であるが、私が知っている限り、アメリカ以外の国にも見当たらない。アメリカは最近、オフショア口座に対する取締りが厳しくなってきた。特に厳しくなってきたのは、リヒテンシュタイン。
ご存知の方は多いと思うが、アメリカ人やアメリカ永住者はソーシャルセキュリティー番号(SSN)を持っている。日本でも国民背番号制がかつて議論になったが、アメリカ人は預金するのも税務申告するのも保険に入るのも、いつも名前と共にSSNを書かされる。この番号で国や州は一元管理できるシステムになっている。便利なものである。
従って、他人名義の預金や架空の口座は絶対に持てない仕組みになっている。さらに他国で預金をする際も、アメリカ人の場合はこの番号を記載しないと口座の開設ができず、外国の銀行の支店がもしアメリカ国内にあり、番号を記載しないアメリカ人の預金口座を外国で作った場合、アメリカの支店は業務禁止になるというもの。オフショアにある銀行は、そのためアメリカに一切支店を出さないが、アメリカ人がアメリカから送金する際にはIRS(アメリカの国税庁にあたる機関)にわからないようにするのに苦労する。手っ取り早いのは、アメリカ人以外の外国人の名義を借用して送金する手もあるが、いろんな意味でのリスクもある。そこで、債券や現金を運び屋を使って外国に持って行く者までいる。
日本にはないがアメリカには密告制度があり(かつて日本でも昭和29年まではあった)、密告した者の言うことが正しく、それで脱税が摘発された場合は、税額の10%を限度としてIRSが報奨金を出すというものだ。2年前この法律が改正され、10%が30%まで与えることができるようになった。このため、今アメリカでは密告が急に増え出し、IRSの税務調査が追いつかなくなっている。
このようなことから、資産家はますます節税や脱税がし辛くなり、何をするのもSSNの制約を受けるため、いっそうアメリカ人でなければSSNの規制が無く、もっと節税方法は見つかるということから、税金を理由にアメリカ国籍を放棄する人が毎年何百人の単位で増えているというのである。ウォール・ストリート・ジャーナル誌によると、2007年は470人あったという。
ビル・クリントン大統領は租税を免れたいがためアメリカ国籍を放棄する人に腹を立て、米国籍を放棄しても10年間はアメリカで申告を行わなくてはならず、アメリカで発生した所得に対してはアメリカで税金を払え、という法律を成立させた。
しかしこれとても、10年間辛抱すればアメリカの税法の支配から離れることができるので、新しい法律(税法)がこのたび成立した。このNew Lowとは、アメリカ国籍保有者だけでなく、グリーンカード保持者、さらにその受取人まで範囲が広がり、アメリカ国籍や永住権を放棄したときに、Unrealized Gain(全財産を処分したときに得られる所得)に対して一括課税がなされるようになった。ちなみに、適用対象とされる人は、資産が2億円(2百万ドル)、過去5年間の平均年間納税額が1,300万円(124,000ドル)を超えている人たちだ。資産家と政府、いやはや凄まじい攻防戦ですなあ。
ちなみに日本人も相続税対策の一番の決め手は日本国籍を離脱することだが、税対策のために離脱する日本人はほとんどいない。
